日本農芸化学会2015年度大会(実行委員長 稲垣賢二 岡山大学大学院環境生命科学研究科教授)は,2015年3月26(木)から29(日)までの4日間,ホテルグランヴィア岡山および岡山大学津島キャンパスを会場として開催された。津島キャンパスは温暖な気候に恵まれた「晴れの国おかやま」にあり,交通の要衝であるJR岡山駅から2.5 kmという岡山市中心部に位置しており,また総面積約63万 m2 という全国屈指の緑あふれる広大な敷地を誇っている。今回の開催にあたり,一般講演等の会場として,一般教育棟と教育学部棟を使わせていただく事により,全ての講演の実施が可能となった。中四国支部で開催する本大会は,広島大学で2004年3月に開催して以来2回目であったが,岡山地区の農芸化学会会員を中心に中四国支部一丸となって開催の準備にあたった。
本大会では,参加登録WEB受付の完全実施を継続するとともに,参加費の払い込みのクレジットカード決済・コンビニ決済を第一の方法としていただいたくことの徹底を図った。当日参加受付をされた方のうち現金払いした方は昨年度の460名から247名に減少し,受付業務が多いに軽減された。さらにこれをゼロに近づける事が期待される。
大会初日はホテルグランヴィア岡山4階フェニックスにて9時から2015年度学会賞授賞式(日本農芸化学会賞2件,日本農芸化学会功績賞1件,農芸化学技術賞4件,農芸化学奨励賞10件)・農芸化学研究企画賞表彰式(2件)・BBB関係表彰式が行われた。BBB 関係表彰については,BBB刊行を委託したTaylor & Francis社からも総評をいただいた。授賞式の後,例年の大会と同様に,日本農芸化学会賞,日本農芸化学会功績賞,農芸化学技術賞,農芸化学奨励賞の受賞講演が行われた。

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ホテルグランヴィア岡山会場入口                                     授賞式(農芸化学奨励賞)

昨年度は,農芸化学「化学と生物」シンポジウムを大会とは別に実施したが,今年度は上記受賞講演終了後,16時から同ホテル3階クリスタルにおいて『生き物の仕組みを化学する楽しさ』という総合タイトルで開催した。また今回の目的を高校生・一般の方々へ農芸化学を広く広報する事とし,大会二日目のジュニア農芸化学会参加者に前泊をしてもらって本シンポジウムへの参加も呼びかけ,岡山近隣の高校へも出席を呼びかけた結果,参加者は600名以上と大盛況であった。クリスタルの部屋のみでは狭い可能性があるという事で,隣の部屋パールにスライド映像・音声を中継した結果,参加者ほぼ全員に座って聴講してもらう事ができた。今回,農芸化学分野を代表する4名の先生方をお招きし,一般・高校生と学会員の両方が参加し易い日時・場所,興味を惹く内容で開催した。高校生等に対しては講演の内容が難しすぎる一面もある事を懸念したが,高校生からも積極的な質疑がなされ,アンケート回答に農芸化学という学問が理解できたというコメントが多くよせられたことから,その懸念は杞憂であった。人数的に大盛況であっただけでなく,一般・高校生と学会員の交流(理解)にも繋がった。本開催形態での成功は,次年度シンポジウムを含む一般・高校生向けの企画に有用な材料となると思われる。

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農芸化学「化学と生物」シンポジウム

上記シンポジウム開催時間中に学会員向けに岡山城・後楽園へのミニエクスカーションツアーも実施した。参加者は17名とやや少なめであったが,参加者からは好評であった。
その後18時半より再び4階クリスタルに場所を移動して懇親会を開催した。開会にあたり恒例の鏡割りが行われた。岡山県酒造組合連合会,酒類研究所のお世話により,中四国地区の醸造元から日本酒・ワインを参加者に味わってもらうコーナーを準備したところ,大変好評であった。700名を超える参加者による本学会ならではの交流がなされた。

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                    懇親会(鏡割り)                                          懇親会(日本酒・ワインコーナー)

大会二日目からは,岡山大学津島キャンパスにて,一般講演(2055題),シンポジウム(23課題,141題),ランチョンセミナー(18題),ならびにJABEEランチョンシンポジウム・男女共同参画ランチョンシンポジウムが行われた。会場全てについて100名以上の部屋を一教室で確保する事が難しかったため,新たな試みとして隣り合う講義室を併せて片方の講義室に画像音声を中継する形(7カ所設置)としたところ,大変効率の良い運営が可能となった。
今年度も,口頭発表においては,発表者がUSBで発表ファイルを持参しPCと液晶プロジェクターで発表する形を継承した。委託業者と実行委員会との連携によりほとんどトラブルがなく終える事ができた。口頭発表についてはこの形式がこれからも踏襲されると思われる。
一般講演の中から,事前審査により28演題がトピックスに選ばれ,座長による口頭発表の確認を経て,全てにトピックス賞が授与された。今年度からトピックスに選ばれた発表者に産学官学術交流委員会フォーラムにおけるポスター発表も依頼したところ,ほぼ全てのトピックス選定者に対応いただいた。
シンポジウムについては,大会実行委員会で「農芸化学を基軸とした異分野融合研究と新技術創成」をテーマとし,「次世代の農芸化学領域を開拓する異分野融合領域研究」と「地域活性化に資するグローカルな農芸化学研究」をシンポジウムコンセプトとして課題を公募し,予定の20件を超える23課題の公募があったが,全てを採択した。9課題に中四国支部所属の世話人が関与していた事,企業の研究者の企画が含まれていた事など,目的のテーマに沿い,農芸化学らしいシンポジウムが多く,活発なディスカッションも行われた。従来の大会では最終日の午後にシンポジウムを集中させて実施する事が多かったが,今回の大会では,最終日の午前と午後の両方に一般講演を同時並行でシンポジウムを開催した。午前と午後に類似分野のシンポジウムを設定するなどして工夫した結果,シンポジウムの全ての会場,さらには一般講演の会場にも聴衆が多く集まり,一定の成果があった。

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一般講演会場                                        シンポジウム会場

ランチョンセミナーには18企業・団体に企画をだしていただいた。これまでの大会でランチョンセミナーを実施されていない企業・団体に参加いただいた事で,多くの参加者に聴講いただけた。今年度から,チケット配布と入場の際に,参加証による認証を行った事により参加者の分析を行う事ができ,今後の大会の際の参考となるデータを得た。4日目にもランチョンセミナーを多く実施した事で,4日目午後の一般講演・シンポジウムへの参加を促せたと思われる。3日間のランチョンには,岡山県内の仕出し屋3店に岡山らしい弁当を提供してもらい,参加者に好評であった。
大会二日目にはジュニア農芸化学会を開催した。広いスペースを取る事が望ましいことから,展示会場の体育館二棟のうち一棟の半分を発表会場とし,農学部講義室に受付会場(本部)と控室を設置した。また上述の通り,一日目の 農芸化学「化学と生物」シンポジウム への参加を促すため,10時からの開催とし,前泊による参加を促した。前日のシンポジウムへの参加があり,受付に大人数が集中する事もない効率的な運営が行えた。最終的に50校からの発表が行われ,審査の結果,金賞1,銀賞2,銅賞2が選ばれ,表彰式が15時頃から行われた。ここ3年間は同じ高校からの発表が連続して金賞に選ばれていたが,今年度は別の高校の発表が金賞に選ばれた。その後,交流会を行ったところ,これまでの大会よりも早い時間帯だった為か,120名程度の多くの高校生の参加があり,高校生相互間,高校生と農芸化学会会員との交流を深める事ができた。

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ジュニア農芸化学会

大会三日目には産学官学術交流委員会フォーラムとミキサーが開催された。第10回,第11回,第12回農芸化学研究企画賞受賞者の最終報告,中間報告,企画発表,続いてポスターディスカッション,シンポジウム「世界に挑む!日本発バイオベンチャー!!」が行われた。上述の通り,ポスターディスカッションでは新たな取組として大会トピックス演題のポスター発表をしていただいたところ,アクティブなディスカッションが行われ,集客面とトピックスの広報面で成果があがった。一方,シンポジウムの講演は参加者から大変魅力的であるという評価を受けたにもかかわらず,十分な広報がなく,集客がやや不十分であった事が今後の課題である。最後に行われた大会ミキサーと共催で実施された交流会には200名近い参加者があり,多いに盛り上がった。

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産学官学術交流委員会フォーラム

大会期間中の飲料を今回も農芸化学会関係の諸企業にお願いして寄附をいただいた。今回は展示関係企業への通常の依頼と大会実行委員会独自の依頼に加えて,農芸化学会会長(本部)から飲料関係メーカー(賛助会員)へ直接依頼をしていただいた結果,多くの寄附をいただき,参加者の方に展示会場および休憩室でお配りする事ができ好評であった。ご寄附いただいた企業にはこの場を借りて御礼を申し上げる。

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ご寄附いただいた飲料等

今回新たな取組として,託児を従来の有料から完全無料で実施したところ,多くの会員に利用していただき,利用者から大変好評であった。利用者の一人からこのような制度を実施している学会は少なく文科省の男女参画事業者に農芸化学会での実施を報告していただいたとのコメントをいただいた。学会としての継続実施が望まれる。
展示会場における抽選会においてもランチョンセミナーのチケット配布で利用した参加証による認証を行う事により,データの解析ができ,学生会員ばかりでなく一般会員が多く参加されている実態が把握できた。抽選景品については,中四国支部の食品関係企業からの寄附をいただき,当選者には好評であった。展示会場に大会実行委員会枠を設け,それに参加いただいた岡山近県の企業からは参加して有意義との評価をいただいた。

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展示会場(入口)                                       展示会場(抽選)

大会終了後,恒例の農芸化学Frontiersシンポジウムが湯郷温泉で開催された。92名の参加により講演会,夜の交流会ともにアクティブな会が催された。担当実行委員がそれぞれに参加者を募った結果,多様な所属の先生方,学生が参加した事で,より有意義な交流ができた。2日目の午後にはバイオマスタウン真庭市へのエクスカーションを実施し45名の参加があった。こちらも参加者から大変好評であった。農芸化学会の底上げの為にも本企画の継続的実施が望まれる。

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農芸化学Frontiersシンポジウム

農芸化学会大会は有数の参加者数を誇る大会であり,今後もそのアクティビティを持続していく事が望まれているが,大会実行委員会・学会本部・委託業者の三者が情報共有をきっちり行えば,大会実行委員が少数であっても,運営は可能と考えられる。岡山に在住する農芸化学会員の数が少ない中,大会実行委員会が一致協力して全ての業務を乗り切った事を大変うれしく思う。また今回,大会実行委員会では現金をほとんど扱わず,委託業者にそれらの作業のほとんどを委託した事で,トラブルも減り,実行委員会の負担も軽減できたと思われる。大会参加者の皆様方からは岡山での大会に満足していただいたと運営に関して概ね好評をいただき,大会実行委員一同で安堵した。関係各位に御礼申し上げる。
最後に,近畿日本ツーリスト社,エー・イー企画社,おかやま観光コンベンション協会の担当の方々に厚く御礼申し上げる。委託業務を引き受けていただいた2社の方々には業務以上のフォローアップをしてもらい大会が大変スムーズに運営できた。また,観光コンベンション協会の担当者には,補助金のための事務作業ばかりでなく当日の運営の細かなバックアップをしていただいた。

                                                                                                     2015年度大会実行委員会総務代表
                                                                                                   神崎 浩