第14回男女共同参画学協会連絡会シンポジウム
「国際的に見て日本の研究者における女性割合はなぜ伸びないのか?」

 
上記のシンポジウムが,2016年10月8日(土)(10:00~18:00)お茶の水女子大学において開催された。(主催:男女共同参画学協会連絡会,共催:お茶の水女子大学,後援:内閣府男女共同参画局・文部科学省・厚生労働省・経済産業省・日本学術会議・科学技術振興機構・国立女性教育会館)

午前(10:00~12:30)は2会場に分かれて以下の2つの分科会が開催された。
①「Unconscious biasについて考える」
②「女性のための賞の創設〜その意義と効果を考える」

第14回男女共同参画学協会連絡会シンポジウム(2016)報告書(PDF)
※男女共同参画学協会連絡会より転載許可

深層断面/女性研究者の「女性賞」は有効か-学協会、支援のあり方探る|トピックスニュース|日刊工業新聞|電子版(PDF)
※男女共同参画学協会連絡会より転載許可(2017年11月17日まで)

日本農芸化学会では,今年3つの女性研究者賞(若手女性研究者賞、女性研究者賞、女性企業研究者賞)の創設を決め,シンポジウム当日は応募期間中でもあったため,②の分科会へ出席した。当然のことながら女性賞は男性を排した女性のみに与えられる賞であり,いわばポジティブアクションの典型とも言える取り組みである。女性からも男性からも賛否両論あって然るべき状況の中で,既に女性のための賞を設立している学会や,普段から男女共同参画に関して高い意識をもって活動している研究者がどのような意見を持っているのかに関心があった。まず,世話人の一人である北川尚美氏(化学工学会)より趣旨説明の中で,女性研究者の受賞者比率が低いこと,その中では奨励賞受賞者は年々増加していること,また,学会の規模が大きいほど女性の受賞比率が低下する傾向が見られることなどが紹介された。また,調査対象の45学会中,女性のための賞が設立されている学会は5学会とのことであった。講演は猿橋賞を代表とする女性のための賞の受賞経験のある相馬芳枝氏(産総研名誉リサーチャー)による「女性科学賞の必要性とその効果」,および女性のための賞を企業として設置している株式会社資生堂の石舘周三氏による「資生堂女性研究者サイエンスグラントについて」の2題であった。
相馬氏は女性支援事業が育児支援等の基盤整備とリーダー育成の大きく2つからなり,リーダー育成のための要件として「研究力向上」,「研究資金獲得」,「昇進」に加えて「受賞」を位置づけていた。女性が受賞することの意味としては,女性研究者の認知度を上げること(見える化)とともに研究者としての自信を持たせる効果があるとし,ご自分の具体的な経験に基づいて説得力のある話をされていた。また,「シンポジウム等のオーガナイザーが女性だと,演者の女性比率が増加する」,「授賞選考委員に女性が入ると,女性の受賞者が増えた」といった植物生理学会の解析結果をとても有意義なものとして紹介されていた。一方,優れた研究成果をもとにキャリアーを築いてきた女性研究者に共通することとして,自分自身や女性研究者に対する厳しい目を持ち合わせているという面が挙げられる。相馬氏も「研究室を主宰したい」と考える女性の割合は男性に比べて低いのに対して,「研究室を主宰できなくとも,研究に従事できれば良い」という考えをもつ女性が多いとの過去のアンケート結果に基づき,「女性はリーダーになることをためらっている」,「チャンスを積極的に自分からつかむべき」と主張されていた。また「女性研究者が増えるためには?」との質問に対して,「受賞した女性研究者が頑張ることです」との回答は印象的であった。
石舘氏からは,今年で9回目になる女性研究者サイエンスグラントについて,対象は自然科学分野全体であり,指導的な女性研究者の育成に貢献することを目的としているため,教授は対象としていないこと,また,グラントの特徴的な使途として,ベビーシッター費用等にも使用出来ることなどが紹介された。
その後のパネルディスカッションでは,「日本女性科学者の会」の奨励賞,「日本動物学会」の女性研究者奨励OM賞,「日本生理学会」の入澤彩記念女性生理学者奨励賞,「化学工学会」の女性賞,「日本化学会」の女性化学者奨励賞の紹介があった。また,日本農芸化学会からは男女共同参画委員会委員長・裏出令子氏から,今年新設された女性研究者賞の創設に関わる背景や主旨,内容について報告があった。全体としては,受賞の効果として,上述の「見える化」,「精神的な支え」の外,「他の研究者との交流の機会が広がる」といったことが挙げられていた。また,複数の発表者から,「受賞者のその後の昇進の割合が高いことから,女性がキャリアを築く上で一定の効果があるのではないか」とのコメントがあった。しかし,受賞するような女性研究者であれば,そもそも昇進の可能性が高いとも考えられ,未だ受賞件数も少ないことから,賞の効果の検証は現状では困難であり,今後の課題と感じた。一方,授賞選考の際,いずれの学会も基本的には業績を優先しているが,その際,出産等で研究活動が低下している期間を考慮すべき等の意見があると共に,両親のサポートを受けられる場合とそうでない場合など,それぞれの生活環境によって研究環境も変わってくるので,個別の対応は困難であるとの意見もあった。業績,社会貢献,ワークタイムバランスなど,考慮すべき対象が様々考えられる中で,日本農芸化学会の女性研究者賞の選考に際しても十分に検討すべき課題である。
午後は各学会および大学の男女共同参画委員会からのポスターセッションがあり,個々の取り組み状況が紹介されていた。日本農芸化学会からは,学協会連絡会への報告書をそのままポスターにしたものを掲示したが,見た目が文字だらけで余りアピールしなかったのが反省点である。
その後,全体会議として標題にある「国際的に見て日本の研究者における女性割合はなぜ伸びないのか?」が開催された。
来賓挨拶として内閣府男女共同参画局長の武川恵子氏がされた話の中で,子育て世代を含めた女性の就業率が急速に伸びて来ており,継続就業する環境が整って来ていること,更にこのあとのポジティブアクションをしっかり行うことが重要との話があった。今年4月からは女性活躍推進法が施行され,「えるぼし認定(女性の活躍推進に関する状況などが優良な企業を認定する制度)」を受ける企業が増えていること,また,認定を受けた企業に公共調達でインセンティブを与えるとのことであった。さらに,女性の役員比率もこの3年で2倍に増えており,更に2020年までには10%にする方針でポジティブアクションを進めているとのことであった。学協会や大学での動きはまだ緩やかに感じられる話であった。
講演の最初は文部科学省科学技術・学術政策局長,伊藤洋一氏により「研究環境のダイバーシティーの実現に向けて-科学技術・学術分野における女性の活躍促進-」というタイトルで,文部科学省における男女共同参画の取り組みに関する紹介があった。現状分析として,女性研究者の割合は増加傾向にあるが,諸外国に比べて依然として低く,また,未だ第4期科学技術基本政策で掲げた自然科学系全体における女性研究者割合30%を達成しておらず,この4月に示された第5期科学技術基本政策でも同じ目標設定になっていること,指導的地位にある女性の割合が低いこと,さらに,そもそも理工系に進学する学生の割合が低いことが課題として挙げられていた。要因分析もなされており,家庭と仕事の両立や,出産・育児後の仕事への復帰が困難等の問題に加え,理系分野への一般社会が持つイメージの偏りなどが挙げられていた。最後の要因の一例として,親による子供の進路に関する期待調査をしたところ,男子に対して理系に進んで欲しいと考える親が56%であるのに対して,女子に対してはその半分程度であり,親の希望が与える影響が大きいのではないかとの分析が紹介されていた。一方,文科省における取り組みとしては,育児からの復帰を支援する特別研究員制度であるRPD,女性研究者の研究と出産・育児・介護等のライフイベントとの両立や研究力の向上を図るための取り組みを行う大学等を支援する「ダイバーシティー研究環境実現イニシアティブ」,近隣の研究機関等の協力により,出前授業等で理系の魅力を体験してもらったり,キャリアパス相談会の開催などを推進する「中高生の理系進路選択推進プログラム」の3つが紹介された。
2題目は経済産業省産業技術環境局大学連携推進室長の飯村亜紀子氏から「産業界における理系女性の活躍促進に向けた経済産業省の取り組み」と題して,理工系人材の育成に関する産学官の連絡会議が設置され,産業界のニーズと高等教育のマッチング,産業界における博士人材の活躍促進,理系分野に進む女性の裾野の拡大を3つの柱として検討しているといった話が紹介された。
3題目は沖縄科学技術大学院大学のDilworth Machi氏から「日本と世界の研究者・技術者−これまでの支援策と女性比率−米国における女性研究者推進への取り組み」と題して,アメリカの大学における最近30年間の理工系教職員の女性割合の急速な増加と,そこで特に大きな役割を果たしたADVANCEという事業の紹介があった。これは男女共同参画のための事業だが,この中でも特に重要なものとしてInstitutional transformationというプログラムが紹介された。これは大学のこれまでの文化を根本的に変えることを目的としており,理工系の女性テニュアやリーダー人材の増加のために,女性研究者の採用,昇格の状況向上を目的としたポリシーを設定して実行,それに必要なツールや資源を確保することに対して5年間のグラントを与えるというものである。この事業の成功例から学んだこととして,「大学の将来の存続が男女共同参画の実現にかかっているという認識」,「執行部および中間層の積極的なコミットメント」,「実行に必要な資金」,「unconscious biasを除くこと」,「正確なデータに基づいた進行具合のモニターと実施計画」,「上位職の女性を増やすこと」等が男女共同参加実現の上で必須の要件であるとした。
第4題は日本大学の野呂知加子氏より「日本と世界の研究者・技術者−これまでの支援策と女性比率−韓国の状況」と題して,演者と韓国との男女共同参画に関する交流についての紹介があった。
最後に,日本大学の大坪久子氏とお茶の水女子大学の小川温子氏をファシリテーターとして,「まだまだ低い女性比率:伸ばすために何が出来る?」という題目でパネル討論会が行われた。最初に森永製菓株式会社の宮井真千子氏より,企業における女性登用の現状と理系女子への期待についての話があり,次に情報・システム研究機構の中村淑子氏よりイギリスで独自に推進されたアテナ・スワン憲章の紹介があった。宮井氏によると,理工系企業における女性の効果は,「プロダクトイノベーション(商品が変わる=男性より消費者側に近い女性が開発すると売れるものが出来る)」,「プロセスイノベーション(生産性が上がる=限られた時間枠で効率的に仕事をする)」,「外部からの評価の向上」,「職場内の効果」であり,女性の力が非常に期待されているとのことであった。従って,企業としては理系の女性人材を採用したいと考えているが,問題は対象となる女性の割合が少ないとのことであった。また,アカデミアへの企業からの期待として,「理工系への進学率を上げる」,「引き出しの多い研究者育成(リベラルアーツの重要性)」,「社会人の大学への柔軟な受入」,「研究におけるチーム力の重要性を理解する経験を学生に与えること」を挙げていた。
討論会では,女性研究者の割合を増やすために現状で何が出来るのかという視点での議論を進めようとしたが,かなり個別の意見が多く,全体としての方向性の見えない内容になった感がある。その中では,女性研究者になり得る人材の裾野を広げるといった観点に関連した話が多く聞かれた。例えば,小学校は理系を専門とする教師が少ないので,理系の科目を興味深く教える能力が足りない,小学校の各教科もある程度専門の教員で埋めていく必要があるのではないか。それに対し,文科省の伊藤氏は,初等教育における先生が子供の将来の方向性に与える影響は大きいという調査結果があると述べた上で,教育のリソースを企業や近くの大学など,外にも求めることも必要との意見であった。
今回のシンポジウムに出席し,あらためて男女共同参画の現状と,目標達成が遅延している要因,さらに状況を改善するための各分野毎の取り組みをある程度整理する事ができた。グラントやインセンティブで促進したり,法的な措置で急速に改善を迫ることが出来る部分がある一方で,理工系女子の裾野を広げる様な即効性のある対策を見出すのが困難と思われる部分もあり,社会全体の意識が改善されるまで地道な取り組みが必要であると同時に,それを促すべく様々な要素を構造的に捉えた対応が重要であろうと思われる。

茨城大学農学部
鈴木義人