第15回男女共同参画学協会連絡会シンポジウム
「ダイバーシティ推進における産学の取り組み」

上記のシンポジウムが2017年10月14日(土)10:00~17:00、東京大学 本郷キャンパスで開催された。本学会からは、京都大学裏出先生、大阪府立大学恩田先生及び香川大学合谷の計3名が参加した。

本シンポジウムの主催は男女共同参画学協会連絡会、共催は東京大学、後援は内閣府男女共同参画局・文部科学省・厚生労働省・経済産業省・日本学術会議・科学技術振興機構・日本経済団体連合会・経済同友会・日本商工会議所・国立大学協会・日本私立大学連盟及び国立女性教育会館であった。今回のシンポジウムの特徴は、これまでの学会や大学中心の内容ではなく、企業の事例も多く紹介するものであった。後援に、日経連など前回まで参加していなかった団体が多く加わっていることも目を引いた。

今回は分科会形式ではなく、午前、午後とも1会場で全体会議形式であった。過去の報告を見ると、第11回、13回、15回が午前、午後とも全体会議、第12回、14回は午前分科会、午後全体会議であった。

午前は、「第4回科学技術専門職の男女共同参画実態調査報告」というタイトルで、日本遺伝子学会・日本大学の大坪久子氏が、「大規模アンケート調査の目的・意義」について、日本建築学会・国立保健医療学院の阪東美智子氏が、「第4回調査報告の調査結果の概要」について、日本農芸化学会・京都大学の裏出令子氏が「第4回調査報告の自由記述回答」について紹介し(写真1)、日本数学会・日本大学の平田典子氏が「第4回の調査に基づく文部科学省および内閣府に対する提言・要望の内容」について紹介された。

写真
写真1:裏出令子氏の講演

大坪久子氏の講演では、これまでのアンケートの結果を基に、多くの要望が政府に出され、そのいくつかが予算化されていること及び第1回から第4回のアンケートから、「大学で研究室の主宰者になりたいという女性研究者」がコンスタントに増加していることも報告された。大規模アンケートを続けることで、政府の12年間の継続的な支援を得ることができ、その意義が再確認されたと感じた。

阪東美智子氏の講演では、任期付きか無期雇用かなどの雇用形態・役職などについては前回調査に比して男女差が縮小はしたものの、まだ差が大きく、男女共同参画・施策に対する認知度が依然として低く、特に、男性の意識改革が必要と考えられた。

本学会の裏出令子氏は、4571名から寄せられた自由回答を分析、研究者・技術者の置かれている現状、問題点、意識及び要望について取りまとめた結果を講演した。全回答者に対する自由記述回答者の割合は、女性28%(1379名)、男性24%(3192名)であり、35歳以降で女性記述回答者の比率が男性より高くなり、特に45歳から65歳未満の年齢層で男女差が大きかった。回答は、記述内容にそって、WLB、ポスドク、キャリアパス、数値目標、進路選択促進、意識改革の6項目に分類され、いずれも、第3回の調査でも記述回答が多く、この6項目の問題が未だ十分に解決されていないことが考えられた。この6項目の中で、最も回答数が多かったのは数値目標の項目で、女性の意見は反対意見63%、賛成意見20%であったのに対し、男性の意見は反対意見85%、賛成意見9%であり、数値目標に対する意識改革がまだまだ必要と感じられた。

平田典子氏は、文部科学省及び内閣府に対する提言について述べられたが、その中で、無意識のバイアスについて述べられたことが興味深かった。無意識のバイアスは、昨年の第14回男女共同参画学協会連絡会シンポジウムでのMarch Dilworth氏の基調講演で述べられたもので、「誰もが潜在的に持っているバイアス(偏見)」のことであり、比較的新しい概念である。採用や昇進の担当者が自分は男女差別をしないで公平に判断していると自ら信じていても、「女性は男性と比べて細やかな心遣いが出来て働き者」という先入観を無意識の中に持っていると、個人の資質を正確に判断できず、気付かないうちに差別的な対応を行うことがあるのがその一例である。男女共同参画学協会連絡会では前述の昨年のシンポジウムでの講演を大変分かりやすいリーフレットにとりまとめ、これを配布していることが報告された。

昼食時の11時30分から13時はポスターセッションが開催された。農芸化学会では恩田先生が作成されたポスターが展示され、大変分かりやすく、多くの方が興味深く見られていた(写真2)。ポスターセッションでは、日本化学会及び日本数学会で、それぞれ2018年から女性初の学会長及び2015年から女性初理事長が就任したことが報告されており、大変興味深かった。農芸化学会も近いうちにそのようなことになれば望ましく、また、いずれ当たり前でニュースにもならなくなる時期が来ることが期待された。

写真
写真2:ポスターセッション

また、ポスターセッションでは学協会だけでなく大学も発表していた。発表数は、加盟学協会23件(参考:加盟学協会数、正式加盟53、オブザーバー加盟45)、大学24件、学協会のワーキンググループ2件であり、加盟学協会の発表件数が意外に少ないのではと感じた。

午後は「真の技術革新を目指したダイバーシティ」というタイトルで、その第I部は来賓挨拶と基調講演であった。基調講演1では、経済産業省経済産業政策局経済社会政策室長の小田文子氏が「ダイバーシティ2.0 一歩先の競争戦略へ」というタイトルで、現在はダイバーシティが必要かどうかを議論する段階は終わり、実践の段階へと移ってきたこと。企業の側から見ると、ダイバーシティは企業が生き残っていくための戦略であること。そして、ダイバーシティ2.0は中長期的に企業価値を生み出し続ける経営上の取組であると述べられ、そのガイドラインなどが紹介された。基調講演2では、科学技術振興機構の渡部美代子氏が「受け入れるダイバーシティから発信するダイバーシティへ -ジェンダーサミット10発アジアから世界へ-」というタイトルで講演された。この中では、東京においてアジアで初めて開催されたジェンダーサミット10の紹介と共に、日本のジェンダーギャップ指数が111位で非常に低いこと(本シンポジウム後の昨年11月の報道では、日本の現在のジェンダーギャップ指数は114位であり、さらに低下している)、インド地下鉄工事現場総監督の日本人女性技術者の活躍、学際研究トップ10の論文比率が男女それぞれ単独の場合よりも男女共同著者の方が高いこと、特許に於いても男女チームの特許の経済価値が男子チームの特許の経済価値より高いことが紹介され、大変印象に残った。これまでのダイバーシティの流れは、欧米から世界へ(受け入れるダイバーシティ)であったが、アジアの複雑性や多様性を受け入れ、「男性対女性」という画一的かつ単純な構図で語るのではなく、アジアの考え方を世界に展開する必要があり、これからは発信「も」するダイバーシティへかわる必要があるということも印象的であった。

第II部では、学術界から3名、産業界から2名の、計5人の演者による講演の後、講演を交えたパネル討論が催された。講演では、主催学会(化学工学会)からの講演として、日本女子大学の宮崎あかね氏が、「各種データーおよび第4回科学技術系専門職の男女共同参画実態調査に基づくダイバーシティ推進における産学の取り組み」について、学からの講演1として、名古屋大学の束村弘子氏が「名古屋大学の男女共同参画推進の取組」について、学からの講演2として芝浦工業大学の國井秀子氏が「女性活躍推進における産学の取組の違いと連携の重要性」について、産業からの講演1として21世紀職業財団の岩田喜美枝氏が「女性活躍と企業の成長戦略」について、産業からの講演2として日産自動車の星野朝子氏が「日産自動車のダイバーシティ改革」について紹介された。

まず、宮崎あかね氏の講演では、様々な調査から見える女性比率について述べられた。即ち、高校時点における理科に対する興味では、生物及び数学について男女差は見られないが、物理・化学では男女差が生じ、女性の方が明らかに低かった。一方、大学院卒業後社会人で研究に関わっている女性比率は、化学系や生物系などの分野にかかわらず、在学中の比率より減少していた。そして、管理職ではさらに女性比率が低下しており、世界的に見ても、日本と韓国は他の国(欧米諸国だけで無くシンガポール、フィリピン、マレーシア)と比べて著しく低かった。産と学の比較ではどちらも女性の役職者数は男性より低いが、産は学と比べて男女の差は小さく、2016年の資料では女性の登用が進み65歳以上で女性の方が多いくらいであった。一方、学は産に追いつきつつあるがまだ十分ではないようであった。一方、研究開発費の面では学では男女の差が小さくなっているが産では大きくなっていたのは意外であった。この様に具体的な状況においては産学で差は見られる。一方、意識面ではほぼ同じようであった。

束村氏の講演ではアメリカ、イギリス、ロシア、フランスなど主要国における女性研究者割合の比較で日本が最も低く、ジェンダーギャップ指数がG7で最下位など日本の現状を述べられた後、リーマンショック後、女性が役員を勤めている企業の方が勤めていない企業よりも業績が良好なことや、女性の労働力率が高い国ほど出生率が高い例などを挙げて、戦略としての男女共同参画、ダイバーシティの重要性を述べられた。そして、学内常時学童保育所の設置、女性教員枠や女性教員支援体制の構築、女子学生支援や女性リーダー育成プログラムが紹介され、そのような取り組みによって、国連のUN Womenによって、日本で唯一、女性参加に積極的に取り組むトップ10大学のひとつに名古屋大学が選出されたことが報告された。

国井氏の講演では、まず、男女共同参画に対する大学と企業の取り組みの違いについて述べられた。大学では男女共同参画を人権問題(女性の権利拡充)として捉え、大学としての国際ランキング向上や行動計画達成が重要で、取り組みの結果が重視されていない。一方、企業では、当初は大学と同様、人権問題として捉えていたが、近年は企業の成長のための重要な経営課題とし(人材確保、多様性によるイノベーション推進)と捉え、取り組みの結果が重要視されている事が述べられた。

産から見た大学の課題は、組織方針の展開の仕組みの弱さや責任・権限の不明確さ即ちガバナンスの弱さであり、女性研究者のキャリア構築に責任を持つ体制が無いことである。さらに、女性技術者の不足という産業界の潜在的ニーズに対する認識が弱く、ダイバーシティ啓発教育が遅れ、中高生から博士課程をへて女性教員への工学系女性育成のパイプラインができていない。また、私学では国立大学よりガバナンス体制が複雑で男女共同参画室の責任権限が曖昧であり、国立大学との人材獲得競争などが不利であることが述べられた。そして、これらの解決には産学の連携が必要であることが提言された。

岩田氏の講演では、労働力人口の減少の中「広い人材プールから人材を選抜できること」、女性である、子供がいる等を理由として活躍できていない社員がいる事に対し「人材を完全活用できること」及び多様な消費者の理解をつかみ、新しいアイデアを生む土壌を作る上で「人材の多様性を企業の力にすること」で、企業として女性の活躍は、企業の持続的発展につながり、企業の成長戦略となるということであった。そして、女性の活躍を推進するためには仕事の継続とキャリアアップの両方が必要で、現在は、女性は子供ができたら退職が当たり前の第一段階から女性はかろうじて仕事と育児・介護を両立している第二段階に入っている。今後は男女とも家庭責任を担いながらしっかりキャリアアップする第三段階に進むことが必要である。その為には、企業側には、「仕事と育児の両立支援」、「全社員の働き方改革」及び「女性管理職の育成・登用のためのポジティブアクション」が必要であり、さらに、男性管理職と女性社員の意識改革も必要であることが述べられた。

星野氏の講演では、日産自動車ではまさに経営戦略としてダイバーシティ改革が実行されており、商品企画から生産、販売に至る社内の全てのプロセスに女性視点が導入されていること、それが商品改善(デュアルバックドア、ハンズフリードア、キャップレス給油口、らくらく車庫入れなど)や経営改善の企業利益に直結し、結果として日産自動車での女性比率や女性管理職比率が現在10.1%となり、業界平均の2.8%と比べ、非常に高いことが紹介された。なお、星野氏の語り口は軽妙で、時折会場に笑いが満ちたことは印象的であった。

引き続いて、第II部の演者に東北大学名誉教授で総合科学技術・イノベーション会議常勤議員である原山優子氏を加えてパネル討論が催された(写真3)。議論が多様であったため、印象に残ったことを記させていただく。

写真
写真3:パネルディスカッション

まず、ファシリテーターの辻氏から多様性について原山氏へ質問があった。これに対して、OECDの科学技術産業局で局長はアメリカ人で男性で協調重視型であり、次長の原山氏は日本人で女性で直球型であり、すべての面で対照的であったが、そのため意見が偏ることなく、今までなかったことができ、結果としてOECDトップから高く評価された。一方、日本の会議では男性しかいない場合が多く、そこで男女共同参画を論議しても空回りしていると言うことであった。束村氏は、大学では部局長会は全員男性の場合があり、総論賛成・各論反対で、モノカルチャーな(多様性でない)大学は企業よりも女性にとって魅力的では無く、任期付き助教から任期なし助教、准教授と上がるごとに女性の数が減少する傾向にあると述べられた。

パネルディスカッションでは、いわゆる常識というものについても論議された。例えば、原山氏はキャリアアップでは雇用された組織の中での上昇を考えるがそれは日本独特であり、その常識(終身雇用?)は現在崩れつつあり、捕らわれる必要はなく、自らのスキルアップのみを考えればよく、国際的に活躍できる。ただ、そこにサポートは必要である。一方、男女に関係なく、今後AIが浸透し、世界的に雇用が大きく変化する状況が生じることはよく準備しておく必要がある。また、女性は男性以上に仕事をしなければならないという常識も捨てるべきであるとも述べられた。星野氏は、男性の女性に対する善意としての庇いや配慮が女性の昇進を結果として妨げていることを、たとえば、妊娠している女性に対する配慮というような例を挙げて説明された。妊娠した女性に対して男性は庇っている、慮っているという様であったが、直接可能かどうか本人に聞いて、本人ができると判断したら挑戦させるべきであり、実際に挑戦させて昇任が可能となった。常識という思い込みは良くなく、コミュニケーションが大事ということであった。

シーズ育成に関しても様々な観点から議論された。星野氏の日産自動車は女性を前のめりに取っており、女性にとって活躍のチャンスであり、女性は人生を早めに決める傾向があるため、高校生に対してアクションを取っているということであった。岩田氏は大学も企業も同じで互いに学び会う機会が欲しい。企業にとって理系女性を求める声は大きいが、理系の女子は少ない。中学3年間から高校1年生の間に進路が決まると考えられるのでそこにターゲットを絞ったら良いのではと述べられた。國井氏も中学生が重要であると述べた。

全体的に、産は企業活動に対する影響が大きいため、実利という面からも男女共同参画が学よりも進んでいるのではと感じられた。そして男女共同参画からダイバーシティへ発展してきていることが実感された。

パネルディスカッションの後、人文社会科学系学協会男女共同参画連絡会(GEAHSSギース)の設立が紹介され、その後、第15期活動報告、第15期委員長挨拶、第16期幹事学会(日本建築学会)挨拶、第16期委員長挨拶の後、閉会となった。なお、第16期幹事学会(日本建築学会)挨拶で、本会のロゴマーク作成が次期の新たな活動として追加提案され、会場全体で賛同された。

今回シンポジウムに参加して改めて自らの認識に甘さを痛感した。私の認識では男女共同参画は単に、人権問題即ち女性の権利拡充と捉えていた。しかし、産業界や世界的な趨勢は、ダイバーシティ、多様性の拡充で閉塞した状態を突き破ろうとしていると感じられた。産業界のみならず、大学においても男女共同参画をダイバーシティの一環として捉えそれを拡充していくことは、本来自由な活動を望む大学の活性化に繋がるべきものであろう。現実は、大学の方が企業よりもモノカルチャーであり、それを打破していくには男女共同参画の地道な活動がまだまだ必要と思われる。

なお、男女共同参画学協会連絡会のWebページの本シンポジウムのページ(http://www.djrenrakukai.org/report/20171014_15th/index.html)では、詳細な内容や演者が使用した講演資料(パワーポイントのPDF)がダウンロード可能である。是非ご覧頂きたい。

香川大学農学部
合谷 祥一