国が行っている産学官連携支援について勉強するため、7月25日に、さんわかメンバーで科学技術振興機構(JST)と農水省を訪問しましたので、その内容をご報告いたします。

科学技術振興機構(JST)の訪問

文責  大久保(エーザイ)

はじめに
科学技術振興機構(JST)は研究開発戦略を立案し、科学技術イノベーションの創出の推進と科学技術イノベーション創出のための科学技術基盤の形成を目的とした国立研究開発法人です。今回はJSTが行っている各支援事業の理解とそれらを農芸化学にたずさわる研究者の間で共有することを目的にさんわか一同ご訪問させていただき、「科学技術振興機構(JST)における産学共同研究開発・ベンチャー支援について」の紹介をしていただきました。そこで得られた情報を本紙で紹介させていただき、新たな試みにチャレンジしようとしている方々の一助にしたいと考えております。JSTでは主に ①産学マッチング型支援事業、②大学発ベンチャー、③産学連携拠点、といった3つの産学連携に関する支援事業を展開しています。本紙では特に①、②の支援事業についてご説明させていただきます。

①産学マッチング型支援事業
1. 研究成果最適展開支援プログラム (A-STEP)

本支援の目的
企業の事業化構想の中で、大学発技術シーズを活用するための開発を支援する。課題や研究開発分野の特性に応じ、研究開発ステージに応じて、切れ目なく成果の実用化・事業化を促進する。科学技術に関する研究テーマであれば申請可能。ただし基本的には「ステージII:シーズ育成」タイプからの申請がメインとなっている。一方で、創薬関連の研究テーマはAMEDが今後対応するとのことから、JSTでは募集対象外となっている。

支援内容(実際に募集を行っているものを対象)
1) ステージI:産業ニーズ対応タイプ(グラント)
産業界から技術テーマを募集し、それに適した技術を大学研究者(複数の大学からなるチームでも可)から募る。H27年度のテーマは「小型高輝度中性子源とその利用技術の開発」(H28年度は別テーマで8月下旬公募予定)。研究開発期間は2~5年、年2500万円以下の支援が受けられる。

2) ステージI:戦略テーマ重点タイプ(グラント)
設定した研究テーマを対象に、実用化に向けた研究開発を促進する。企業と大学等による共同申請が求められる。特許は必要ではないが、申請時に基礎研究の成果として見出されたシーズが存在していることが条件。H27年度のテーマは「IoT、ウエアラブル・デバイスのための環境発電の実現化技術の創成」、「ナノレベルの分解能と識別感度をもつイオンセンサの実現に向けた技術開発」(H28年度は別テーマで8月下旬公募予定)。研究開発期間は最長6年、年5000万円以下の支援が受けられる。

3) ステージII:シーズ育成タイプ(マッチングファンド)
社会的・経済的なインパクトにつながることが期待できる、幅広い分野からの研究開発提案を対象とし、第1~4分野までが設定されている(アグリ・バイオ関連は第4分野;プログラムオフィサーはバイオインダストリー協会 穴澤 秀治さん)。実用性検証から、中核技術の構築のための産学共同研究開発を支援する。申請には技術シーズの根拠となる知的財産(特許)が求められる(出願していれば申請は可能)。研究開発期間は2~6年、またJST支出総額は2000万円~5億円となり、この委託費と同等の資金負担が企業に求められる(自己負担額は企業が支出した自己資金に以下の係数を乗じたものとなる。資本金10億円以下の企業の場合4倍、資本金10億円超の企業の場合2倍)。

4) ステージIII:NexTEP-Aタイプ(開発成功時年賦返済)
大学等のシーズについて、開発リスクを伴う大規模な実用化開発を支援する。企業およびシーズ所有者等の共同申請が必要。Aタイプでは資本金10億円以上の企業が応募対象となる。シーズを実用化・開発に成功した場合はJST支出額を10年以内で年賦返済し、不成功の場合はその10%を一括返済する。企業都合により開発が中止した場合は、JST支出額を一括返済する必要がある。研究開発期間は最長10年、JST支出総額は1~15億円となっている。

5) ステージIII:NexTEP-Bタイプ(マッチングファンド)
大学等のシーズについて、開発リスクを伴う大規模な実用化開発を支援する。企業およびシーズ所有者等の共同申請が必要。Bタイプでは資本金10億円以下の企業が応募対象となる。JSTから支出する委託費と同等以上の資金負担が企業に求められる。自己負担額は、企業が支出した自己資金に係数(2倍)を乗じたもの。研究開発期間は最長5年、JST支出総額は3億円までとなっている。

2. 先端計測分析技術・機器開発プログラム

概要
革新的な研究成果の創出や産業競争力強化に資する最先端でニーズの高い計測分析技術・機器をシステムも含めて開発する。開発タイプにより、2種類の支援が存在する。

支援内容
1) 要素技術タイプ

最先端の計測分析機器の開発に向けた新規で独創的な要素技術、競合に対して顕著な優位性を持つ要素技術を開発するもの。原則として産と学(・官)からなる開発チームであることが求められる。開発期間は3年程度、年間2000万円程度の支援が受けられる。

2) 先端機器開発タイプ
要素技術開発からプロトタイプ機による実証から実用化までを一貫して実施。チームへユーザーが参画することを強く推奨している。産学官からなる開発チームであることが必須。開発期間は5年程度、年間5000万円程度の支援が受けられる。

3. マッチングプランナープログラム

概要・支援内容
H27年度に新設。マッチングプランナー(MP)を起点に、地域における産学官ネットワークと連携しつつ、地域の企業と相談して開発ニーズの把握を行い、全国の大学シーズから企業ニーズの解決に適したマッチングを提案する。仙台、東京、大阪、岡山、福岡の全国5拠点にMPを配置し、幅広い技術分野の研究開発に対応。企業と大学を仲介後、企業ニーズ解決試験(Funding)に申請し、共同研究開発の可能性を検証するための支援を受けられる。支援対象は大学・高専・公設試等であり、支援の基準額は1課題につき年170万円となる。

② 大学発ベンチャー

1. 大学発新産業創出プログラム (START)

概要
事業化ノウハウをもった人材(事業プロモーター*)を活用し、企業前段階から公的資金と民間の事業化ノウハウ等を組み合わせることにより、ポテンシャルが高い技術シーズに関して事業戦略・知財戦略を構築して事業化を目指す。本支援は医療・創薬に関する技術シーズも対象となる。

*事業プロモーターは期間内での資源・時間・成果のマネジメントや人材・事業のコーディネート、プロジェクトの継続判断、方向修正、出口戦略等を実施する。

支援内容
大学・独法の研究者の技術シーズをもとに、事業プロモーターとともに技術シーズ・ビジネスモデルの選定を行いながら、研究開発と事業化を一体的に推進する。申請者は国公私立大学、専門学校、大学共同利用機関法人、国立研究開発法人等に所属する研究者が対象。研究者が一次申請書を提出し、事業プロモーターによるデューデリジェンスを経て、事業プロモーターと研究者と共同で二次申請書を提出する。JSTから評価を受けた後、具体的な研究開発支援と事業化支援が受けられることとなる。最終的には民間ファンド等の投資によりベンチャーを創出する。研究開発・事業化支援期間は原則3年以下、年間約3000万円となっている。

2. 出資型新事業創出支援プログラム (SUCCESS)

概要・支援内容
JSTの研究開発成果の実用化を目指すベンチャー企業に対する支援。JSTから出資ならびに人的・技術的援助が受けられる。対象は1) JSTの研究開発成果の実用化を目指すベンチャー企業であること、2) 新たに設立する、もしくは設立から概ね5年以内の企業であることが条件である。出資内容は金銭およびJSTが保有する知的財産、研究設備等。出資の上限は以下の通り。

・出資比率:原則として総議決権の1/2未満
・出資金額:累計額で1社あたり5億円以内
*比率、金額の両方を満たすこと

おわりに
各プログラムをご紹介いただいた所感として、これらの前提に学と産の強い連携がはじめから求められるケースが多く、大学のシーズを活かそうとしてもなかなかその機会に恵まれないこともあるのではないかと思いました。その点、JSTのご担当者様から有望なシーズがあるならマッチングプランナーに相談していただき、その連携を構築するところから協力したいとのコメントを頂いております。支援事業も多岐にわたる為、今回ご紹介することのできなかった内容もありますので、JSTに直接お問い合わせいただくことで、皆様の研究の発展につながるサポートをご提案していただけるのではないでしょうか。なお、より詳しい情報はJSTホームページにて紹介されておりますので、ご興味のあった内容についてはそちらも合わせてご覧頂ければ幸いです。

科学技術振興機構(JST) ホームページ
http://www.jst.go.jp/index.html

 

農林水産省の訪問

 

文責 勝山(東京大学)

2016年7月25日に農林水産省を訪問し、農林水産技術会議事務局の皆様(11名)とさんわかメンバー(13名)で意見交換を行いました。今回は農林水産技術会議における農林水産研究基本計画や、現在募集が行われている『「知」の集積と活用の場』に関する検討経過、仕組みの詳細についてご説明いただきました。『「知」の集積と活用の場』は化学と生物2016年8号においても紹介されているので興味を持った方は、ぜひこちらも読んでいただければと思います。

世界的な人口の増加や気候変動、国内における農業従事者の高齢化や後継者の不足が進む中で、国が打ち出す農林水産分野の施策を理解することは、農芸化学の研究者にとっても重要です。その施策の中の一つとして、『「知」の集積と活用の場』による技術革新は位置付けられています。農林水産・食品分野の技術革新、事業化を一層加速するためには、さらなる産学連携研究の強化とこれまで交流の少なかった異分野間(例えば食分野と情報工学等)の情報交換と連携が必要となります。そのための新たな仕組み(「知」の集積と活用の場)が検討され、2016年4月に最終的な取りまとめが公表されました。

「知」の集積と活用の場の特徴的な仕組みの概略
もっとも下層には、様々な分野の企業・研究機関・生産者が加盟する「産学官連携協議会」が存在します。7月4日現在、1177団体が加盟しており、農林水産、食品産業のみではなく、電気精密機械製造業、化学工業などの分野からも会員がいる点が特徴です。その会員がセミナーやワークショップを通して交流を図り、共通の課題に取り組む「研究開発プラットフォーム」を構成します。研究開発プラットフォームは届出制であり、研究開発プラットフォームを届け出た後に次に述べる「研究コンソーシアム」を応募することができます。ここでは「プロデューサー人材」(後述)を中心として、議論を行い共通の研究課題などを設定します。「研究コンソーシアム」では研究開発プラットフォームの構成員が研究開発プラットフォームで設定された共通課題に対応した研究開発に取り組むことになります。コンソーシアムの研究開発費は民間企業1/3、国2/3のマッチングファンド方式となっています。このシステムについてはさんわかメンバーも何となくは聞いたことがあったものの、詳細については浸透していないという意見が出ました。また、知的財産権については研究開発プラットフォームを構成する際に契約を締結することから、基本的にはそれに沿った対応となるとのことでした。

研究開発プラットフォームのプロデューサー人材に関して
もう一つの特徴としては各研究開発プラットフォームに研究から事業化までを統括する「プロデューサー人材」を設置することです。研究開発プラットフォームメンバーが事前に面会し、プロデューサー人材の選考に関わることができます。ベンチャー企業の経営経験者、TLOの社長、一部の大学教授などがその候補となるようです。研究から事業化までの実績のある人はなかなかいないのではないかという意見も出ましたが、農林水産省としてはプロデューサー会議等による運営サポートや次世代プロデューサー育成に対するサポートを行っていくとのことでした。

農林水産技術会議事務局の皆様とさんわかメンバーの意見交換
農林水産技術会議事務局の皆様から大学・研究機関における競争資金への応募の状況、若手研究者の研究環境改善には何が必要か、異分野間の研究業績を公平に審査するには何が必要かなどについて等、ご質問いただきました。また、今後の研究の発展におけるビッグデータの重要性やゲノム編集技術の今後の展望についても意見を交換しました。本意見交換の場を通じて、イノベーション・成果の事業化を促進する仕組みを国としてこのように提供していることを私たち研究者もよく理解し、活用していく必要があると感じました。

おわりに
以上が今回のさんわかメンバーによる農林水産省訪問の報告となります。皆様の今後の研究活動・業務において一助となれば幸いに存じます。ご多忙の中、意見交換の機会をくださった農林水産省 農林水産技術会議事務局の皆様に厚く御礼申し上げます。引き続き、産学官学術交流の推進・未来につながる交流を目指し、様々な企画を用意していきたいと考えておりますので、今後もさんわか活動にご協力・ご参加いただけますよう、よろしくお願い申し上げます。