日本農芸化学会2007年度大会は、本年3月24日(土)から27日(火)までの4日間、東京農業大学世田谷キャンパスにおいて開催された。大会参加者総数は5,183名(前回京都で開催された2006年度大会は5,495名)で、一般講演数2,323件(前回2,495件)であった。

大会初日の3月24日(土)は東京農業大学百周年記念講堂において総会が開かれた。磯貝彰新会長は、本学会が基礎から応用に至る研究をベースに学術や産業に貢献してきた歴史を踏まえ、今後は益々社会的責任ということが強く求められ、一般の方々の科学力強化にも学会として一定の役割を果たすことが重要、と挨拶された。2006年度事業の会務報告、決算に対する監査報告の後、新役員、評議員等の承認、細則の変更、2007年度事業計画と予算案が議題として提出され、審議を経て原案通り承認された。最後に、遠藤章氏(東京農工大学名誉教授、2006年度日本国際賞受賞)の長年の功労に対して名誉会員証が贈呈された。

総会に引き続いて、2007年度の学会賞(2件)、功績賞(2件)、技術賞(2件)、奨励賞(10件)、の授賞式、B.B.B.論文賞(10件)とMost-Cited Paper Award(1件)の表彰式、第4回農芸化学研究企画賞(3件)の表彰式が行なわれた。午後には、各賞の受賞者講演が行われた。まず日本農芸化学会賞受賞者、阿部啓子氏(東京大学大学院農学生命科学研究科)による「味覚に関する分子生物学的・食品科学的研究」と村田幸作氏(京都大学大学院農学研究科)による「微生物「超チャネル」に関する分子生物学的・構造生物学的研究」の講演が行なわれ、それに引き続き日本農芸化学会功績賞の地神芳文氏(産業技術総合研究所・セルエンジニアリング研究部門)による「酵母の糖鎖生物学および糖鎖工学に関する研究」および藤田泰太郎氏(福山大学生命工学部)による「枯草菌代謝ネットワークのカタボライト制御の分子機作」の講演がなされた。農芸化学技術賞の講演は大島芳文氏ほか3氏((株)ミツカンおよび鈴峯女子短大)による「食酢の健康機能とおいしさの解明に基づく新飲用黒酢の開発」と三原康博氏ほか2氏(味の素(株))による「核酸系うま味調味料新製法の開発と工業化」が行なわれ、その後、農芸化学奨励賞の若手研究者10名による講演が行なわれた。

懇親会は会場を京王プラザホテルに移して開催された。懇親会参加登録者は467名で、当日参加申し込み者を含めると最終的な参加者は677名に達した。

懇親会風景

大会の講演はすべて東京農業大学世田谷キャンパスで行われた。一般講演2323題はOHP(発表9分、質疑3分)で行われ、活発な討論が繰り広げられた。いずれの会場も盛況であったが、今大会の新たな取り組みの一つとして、各会場の収容人員に対する混雑度を集計した。どのようなテーマに対しどの程度の聴衆が集まるかを把握出来る資料として、次回大会実行委員会の会場設定やプログラム編成に役立つものと期待している。

大会風景(看板)

シンポジウム16課題のうち、学術的なもの13課題は最終日に一括して行い、社会性のあるJABEE、産官学連携および女性研究者フォーラムの3課題は、一般講演と並行して3月25日(日)に行った。その後のミキサーで引き続きディスカッションを深めていただいた。3月27日午前中をすべてシンポジウムに充てたが、農芸化学の特長を活かし、また分野横断的な挑戦的テーマに対して多くの興味深い発表がなされ、基礎から応用まで新しいシーズの誕生を予感させる有意義なシンポジウムで、どの会場も盛況であった。

学内のレストラン「すずしろ」で25日に開かれたミキサーは300人ほどの収容定員が一杯になるほど非常に盛況であった。東京農大醸造科学科OBの蔵元からの寄贈による日本酒に多くの参加者が堪能した。

写真3. ジュニア農芸化学会

昨年度、本学会としては初の試みとして高校生による研究発表会を行ったが、今年度も引き続き「ジュニア農芸化学会」と称して開催した。展示会場となった桜丘アリーナの中3階を利用してポスター発表を行ったが、東京から7校8題、近辺の埼玉、栃木から2校3題、さらに新潟の他、遠く岡山、九州からの参加もあり、都合16題の高校生発表があった。また中学校からの参加希望が2校あり、特別編として同時に行った。多くの学会参加者からかなり専門的な質問やアドバイスがあり、討論が白熱して終了時刻を大幅に過ぎてしまうほどであった。高校生同士が互いのポスターを見る時間を1時間設けたが、これが好評だった。また今大会ではすべての発表に対し「ジュニア農芸化学会奨励賞」(高校)および「ジュニア農芸化学会努力賞」(中学)を授与した。終了後は東京農業大学「食と農」の博物館にて懇親会が催されたが、発表者同士の交流が活発に行われるなど大変盛会であった。なお、同発表会場では、26日にB.B.B.論文賞とMost-Cited Paper Awardのポスター発表が行われ、こちらも盛況であった。

展示会場

展示会出展数は136社(団体)に上り、景気の回復を反映してか増加傾向にあると言える。また、今大会では展示会場内に「バイオビジネスアピールエリア」を設け、農芸化学技術賞受賞2件の展示の他、学会に深く関わるバイオ企業の優れた技術、商品、情報をアピールする展示を行った。総計11の企業・団体が参加し、こちらも好評であった。一角に純米吟醸酒やチーズケーキ等の農大グッズが当たる抽選会もあり会場を盛り上げるのに一役買った。同様にランチョンセミナーの参加企業が13社と出席者数共々過去最高を記録した。その一方で、前身である「新技術・新製品セミナー」の頃と比較し、研究に関わる技術・製品の紹介から会社の商品開発の成果発表会という性格が一部で強調され始めて来ている。

前大会から導入したスケジューラー機能は、二千数百題に及ぶ講演から個人の興味ある講演をチェックするとマイスケジュールを簡単に作成出来、引き続き好評であった。

ランチョンセミナー

大会最終日の3月27日午後には、日本農芸化学会主催第33回化学と生物シンポジウム「農芸化学と学校教育・社会教育」が東京農業大学百周年記念講堂で開催された。農芸化学が生活や産業に密接に関係した学問分野であるのに対し、一方で高校までの教育の中ではそのことがほとんど認識されていない。農芸化学の理科教育に対する貢献の可能性を探るため、高校側、大学側の双方から現状報告と実践例が報告された。150名近い参加者が熱気のある討論を繰り広げ、教育の場における農芸化学の意義を考える良い機会になった。

今回の大会は一般講演初日にわずかに雨が降られたが、その他は過ごしやすい天候に恵まれ、桜もちょうど開花し始めるなど桜丘の名に相応しい大会になった。一般講演、シンポジウム、ランチョンセミナー、受賞ポスター、ジュニア農芸化学会、展示会場いずれも連日満員で、活発な討論や交流が行われた。要旨集表紙に使わせて頂いた農大通り商店会のモニュメントのようにハートフルな大会になった。最後にご支援・ご協力を賜わりました関係者ならびに参加者の皆様に感謝いたします。

2007年度大会総務
吉川博文、渡邉秀典、堀内裕之、千葉櫻拓、大西康夫、石神健