会員のみなさまへ

2025.07.07

第65代日本農芸化学会 会長 上原 万里子

2025年5月28日に日本農芸化学会会長として選任されました上原 万里子でございます。この場をお借りし、会員のみなさまに一言ご挨拶を申し上げます。

我が国独特といわれる「農芸化学」の領域は広く多彩であり、「生命・食・環境」をキーワードとして、様々な学問の境界域をも取り込んだ懐の深い分野となっております。また、農芸化学分野の研究成果は、現在、世界的に問題となっている様々な気候変動、環境破壊、食料問題等を制御・解決するツールとなり得るものです。今や小学生でも知っているSDGsについても、この言葉が生まれるずっと以前から、日本農芸化学会の先人達は、産業界と連携し貢献をし続けており、100年の歴史が重ねられて来ました。

日本農芸化学会が創立された1924年(大正13年)は、あの関東大震災が起こった翌年でした。現在でも震災の復興にはかなりの時間を要しておりますが、100年前となると、想像を絶する困難さであったことは想像に難くなく、その混乱の中、鈴木梅太郎先生の、本学会を立ち上げた偉業には敬服するばかりです。

本会は1957年に文部省の認可によって社団法人となり、2012年3月1日付けで公益社団法人へと移行いたしました。2025年4月に公益法人制度の改正があり、「法人自らの透明性向上やガバナンス充実に向けた取組を促し、国民からの信頼を確保する」といった趣旨により、民間公益活動の一層の活性化を図らねばなりません。本会の財務は難しい局面を迎えており、幾つかの事業をやむなく縮小することになっておりますが、質の面では高いところを目指したいと考えております。

創立100周年を迎えるにあたり、「創立100周年記念事業実行委員会」では、農芸化学分野の未来の礎となる若手研究者の長期的な育成・強化を目的とする「FUTURE農芸化学100」と銘打った記念事業を計画し、101年目を迎える2025年3月末まで、みなさまからのご寄付を募りました。おかげさまで、「短期海外滞在助成金交付候補者」および「若手研究者スタートアップ助成金交付候補者」の募集を行うことができまして、現在、選考に入っております。将来の農芸化学のさらなる発展を目指した未来への投資として、大学院生を含めた若手研究者の研究活動を支援し、若手研究人材基盤を厚くすることを目的としておりますが、今後は、その先までを見据えた対応も必要となって来るでしょう。

現在、デジタル・グリーン等の成長分野における人材不足が深刻化し、理工農系分野の学生割合が諸外国に比べ極めて低い危機的状況の中、国は多額の資金を投じて強化事業を行っておりますが、卒業後のキャリアパスの不確実性もあり、先行きは不透明です。この状況を打開するため、理工農系分野の魅力を大学のみならず、高等・初等中等教育の現場まで発信することも必要です。本会は、早くからジュニア農芸化学会を開催しており、啓蒙に務めておりますが、さらなる強化が望まれます。働きがいの創出も重要な課題であり、本会でもアカデミアと産業界とで、人材の好循環を生み出すことが期待されるところです。

100周年記念事業の一つとして、「合同・共催シンポジウム(分野融合連携シンポジウムシリーズ)」が企画されました。他学会との連携により個々の学会では成し得ないことを構築するための機会となりました。これらを基盤とし、今後は国際交流事業を推進して行きたいと考えております。

また、本会には7つの支部があり、支部長、副支部長、支部幹事の方々を中心に様々な活動を行っております。複数の支部が連携してシンポジウムなどを開催することもあり、各支部の新しい活動にも期待したいところです。

日本農芸化学会創立101年目の第65代会長という重責、私では甚だ力不足とは存じますが、100周年を迎え、次の新しい100年に向けて女性会長を選出した本会のみなさまの勇気に敬意を表し、また、僭越ながら鈴木梅太郎先生との「縁」を感じ(詳細は100周年記念誌(2025年9月頃刊行予定)をご覧ください)、お引き受けいたしました。理事・各種委員会委員・代議員をはじめとする会員のみなさま、関連企業のみなさま、事務局の方々と協働させていただきつつ、本学会の重鎮の先生方には進むべき道をご相談させていただきながら、この2年間を精一杯務めさせていただく所存です。近い将来、女性会長が特別感なく選出される日が来ることを願っておりますが、それは性別を意識することなく、会員のみなさま全員が活躍できる学会となることとイコールです。先ずは、その土壌を耕す一歩を踏み出したく、何卒ご支援の程 よろしくお願い申し上げます。

過去の会長の挨拶