日本農芸化学会2009年度大会は、本年3月27日(金)から29日(日)までの3日間、博多港中央ふ頭地区に位置する複合コンベンションセンター・福岡国際会議場(写真1)とマリンメッセ福岡において開催された。福岡での開催は10年ぶりとなる。大会は例年通り盛況で、参加者総数5,136名(名古屋で開催された2008年度大会は5,267名)、一般講演数2,718題(前回2,427題)であった。

写真1.福岡国際会議場
写真1.福岡国際会議場

大会初日3月27日(金)午前中、福岡国際会議場3階メインホールにおいて総会が開催された。まず、2008年度事業の会務および決算に対する監査が報告され、続いて清水昌新会長から、磯貝彰前会長の方針を継承し農芸化学会として社会連携に一層努力していきたい、との挨拶があった。次に、新役員、評議員等の承認、細則の変更、2009年度事業計画と予算案が議題として提出され、審議を経て原案通り承認された。

最後に、大村智氏(北里研究所理事・所長、北里大学名誉教授)の長年の功績に対して名誉会員証が贈呈された。総会に引き続いて、2009年度の学会賞(2件)、功績賞(2件)、技術賞(1件)、奨励賞(10件)、の授賞式(写真2)、2008年B.B.B.論文賞とMost-Cited Paper Award(1件)、および第6回農芸化学研究企画賞(3件)の表彰式が行われた。また、本会推薦の田中良和氏(サントリー(株)R&D推進部、植物科学研究所)が日本農学賞を受賞されたことが報告された。

写真2.日本農芸化学会各種受賞表彰式 福岡国際会議場3階メインホールにて
写真2.日本農芸化学会各種受賞表彰式 福岡国際会議場3階メインホールにて

3月27日(金)午後には、引き続き各賞の受賞者講演が福岡国際会議場3階メインホールにおいて行われた。まず日本農芸化学会賞受賞者、長田裕之氏((独)理化学研究所・基幹研究所)による「微生物二次代謝産物に関するケミカルバイオロジー」と松本正吾氏((独)理化学研究所・基幹研究所)による「ガ類性フェロモン産生の分子機構に関する生物有機化学的研究」の講演が行われ、続いて日本農芸化学会功績賞受賞者、河村富士夫氏(立教大学理学部・生命理学部)による「枯草菌の遺伝・育種に関する先導的研究」と佐々武史氏(山形大学名誉教授)による「菌類の生理活性二次代謝産物に関する生物有機化学的研究」の講演が行われた。

最後に、農芸化学技術賞受賞者、ジュネジャ レカ ラジュ氏ほか4名(太陽化学(株))による「L-テアニンの工業的生産技術の確立と機能性食品としての研究開発」の講演が行われた。なお、本大会では日本農芸化学会奨励賞受賞講演(10演題)は28日(土)午前中大会シンポジウムとともに福岡国際会議場会議室にて行われた。


さらに、3月27日(金)午後には、アーキアを用いたゲノム科学研究において優れた研究を展開しているPatrick Forterre 博士(Institut Pasteur/Universite Paris-Sud, France)による「Comparative Genomics of Archaea and Eukarya: a goldmine for molecular biologists and evolutionists」(写真3)と、酵母における膜タンパクの細胞内輸送において永年研究をリードしてきたRandy Schekman 博士(HHMI/UC Berkeley, U.S.A.)による「Sorting signal and coat protein-dependent traffic of membrane proteins from the trans Golgi to the cell surface」が特別講演として行われた。両博士とも研究背景から最先端の研究成果まで解かり易く講演され、大会参加者にとって大変有意義な講演会であった。

写真3.Patrick Forterre博士による特別講演 福岡国際会議場3階メインホールにて
写真3.Patrick Forterre博士による特別講演 福岡国際会議場3階メインホールにて


3月27日(金)夕刻には、福岡国際会議場3階メインホールから2階多目的ホールに場所を移して懇親会が開催された(写真4)。懇親会参加登録者は564名で、当日参加申込者を含めると最終的な参加者は782名であった。会場には九州・沖縄各地の酒造会社からの寄贈による日本酒や焼酎が並べられ、多くの参加者が九州・沖縄の地酒や焼酎を堪能していた。

写真4.懇親会 福岡国際会議場多目的ホールにて
写真4.懇親会 福岡国際会議場多目的ホールにて


大会の一般講演は28日(土)と29日(日)の2日間、マリンメッセ福岡において全てポスター発表形式で行われた(写真5.6.)。両日とも1,300演題以上の発表であったため、ポスター列ごとにポスター番号を貼ってポスターを見付け易いようにしていた。また、ポスター発表は午後1時~2時と2時~3時のコアタイムを設けてシンポジウム開催時間と重ならないようした結果、各コアタイムには多くのポスターパネルの前で活発な討論が繰り広げられ盛況であった。

写真5.大会一般講演ポスター発表 マリンメッセ福岡にて

写真6.大会一般講演ポスター発表 マリンメッセ福岡にて
写真5.6.大会一般講演ポスター発表 マリンメッセ福岡にて

本大会シンポジウムは28日(土)と29日(日)の2日間、福岡国際会議場各会議室で開催された。シンポジウム33課題のうち、学術的な31課題は本学会員により提案された課題で、乳酸菌や酵母の先端研究や応用研究、環境バイオテクノロジー、フードケミカルバイオジー等、「基礎から応用まで」という農芸化学研究分野の特色をよく反映した課題であった。

また、本会本部・学術活動強化委員会主催の「小中高等学校における理科教育に関する農芸化学会からの提言」と本会JABEE対応委員会主催の「農芸化学分野の大学院における技術者、研究者養成教育の改革:現状分析と今後の展開」の2課題のシンポジウムは、両日の昼食時にランチョンシンポジウムとして福岡国際会議場会議室で行われた。学術活動強化委員会主催のランチョンシンポジウムでは、当日午後に予定されていた「ジュニア農芸化学会」参加予定の高校生や引率の先生方が出席され、最終討論では先生方より農芸化学会の理科教育に対する更なる貢献を強く要望する声が多く聞かれた。


本大会でも過去3回の大会で好評を博している高校生を対象にした「ジュニア農芸化学会」が28日の午後1時からマリンメッセ福岡で開催された(写真7)。本大会では、福岡県内16高等学校27演題に加えて九州の各県および中国、関西、関東からも参加があり、過去最高の総数34校、発表演題50題、参加高校生総数約210名であった。今回の「ジュニア農芸化学会」は大会の一般講演のポスター発表とともにマリンメッセ福岡で開催されたことから、高校生だけではなく大会参加者も高校生によるポスター発表に参加し、高校生との活発な質疑応答を行っていた。

写真7.ジュニア農芸化学会のポスター発表風景 マリンメッセ福岡にて
写真7.ジュニア農芸化学会のポスター発表風景 マリンメッセ福岡にて

本発表会では、30名の審査委員が各ポスター発表を厳正に審査し、最優秀賞1件と優秀賞4件(得点数同点のため3件から4件に変更)を選定、さらに参加高校生相互の投票によるベストポスター賞1件を選定した。また、本会では初めての試みとして、ジュニア農芸化学会ポスター発表場所横に「大学案内コーナー」を設置して、農芸化学関連の各大学(学部・専攻)のガイドブック等を掲示した。なお、ガイドブックの収集では、本学会各支部長にご支援・ご協力頂きました。

ジュニア農芸化学会終了後、福岡国際会議場に隣接するサンパレス福岡にて交流会が開催された。清水昌会長による挨拶と最優秀賞、優秀賞、ベストポスター賞の授賞式が行われ、高校生および引率教員、そして大会参加者との間で活発な情報交換が行われていた。


本大会2日目(28日)夕刻には、博多湾を一望できる福岡国際会議場最上階会議室と隣接ロビーでミキサーが開催された。約500人収容のスペースが満員になるほど盛況で、大学院生を中心にして情報交換の場として大変有意義な会であった。懇親会同様、多くの参加者が九州・沖縄各地の地酒や焼酎を堪能していた。

また、本大会でも28日(土)と29日(日)の昼食時に、企業による技術・製品の紹介セミナー・ランチョンセミナーを福岡国際会議場で開催した。昨今の不景気にも関わらず過去最高の16企業の参加を頂き、新規機能性食品の紹介から最新の分析機器・試薬の紹介、さらには特許に関する紹介等、興味深いセミナーが開催され、全ての会場が満員の盛況であった。一方、マリンメッセ福岡で開催された展示会では、出展企業数が例年に比べ少なく、114社、153件の展示であった。

また、本大会でも展示会場内に「バイオビジネスアピールエリア」が設けられ、学会に深く関わるバイオ企業の優れた技術、商品、情報の展示が行われた。出展企業数は減少したものの、一般講演発表とともにマリンメッセ福岡での開催であったことから、多くの参加者が展示会場に足を運び企業担当者には好評だった。また、例年同様展示会場の一角に、博多名物「博多通りもん」や「九州大吟醸」、さらには「九大グッズ」が当る抽選会場が設けられ、多くの人集りができていた。


最後に、本大会最終日の3月29日(日)夕方から翌日に掛けて、第17回「農芸化学Frontiersシンポジウム」が福岡市郊外で湖畔を見下ろす温泉施設「レイクサイドホテル久山」において開催された(写真8)。発表講演は毎日新聞・科学環境部記者・元村有希子氏による「科学とコミュニケーション」と4名の最新気鋭の若手研究者による講演で、参加者総数76名であった。

写真8.第17回農芸化学Frontiersシンポジウム 懇親会 レークサイドホテル久山にて
写真8.第17回農芸化学Frontiersシンポジウム 懇親会 レークサイドホテル久山にて

今回の大会は例年の大会よりも1日短かったことから、一般講演、大会シンポジウム等、全ての行事において過密なスケジュールとなりましたこと、また総合受付での「大会参加登録」と「懇親会参加登録」の混雑等、幾つかの点で不手際がありましたことをお詫びします。最後に、ご支援・ご協力を賜りました維持会員企業各社、ならびに参加者の皆様に感謝いたします。

2009年度大会総務
木村誠、佐藤匡央、角田佳充