日本農芸化学会2010年度大会は、2010年3月27日(土)から30日(火)までの4日間、東京大学安田講堂(本郷)と東京大学教養学部駒場キャンパスにおいて開催された。東京での開催は2007年度大会(東京農業大学)以来である。本年3月末、東京は異常な寒さで連日最高気温が10℃前後、さらに小雨まじりの日もあり、複数の建物を行き来しなくてはならない会場利用の大会としては、最悪のコンディションであった。それにも関わらず、参加者総数5270名、一般演題数2342題と大変盛況であった。

大会初日3月27日(土)午前中、東京大学安田講堂において総会が開催された。まず清水昌会長より、会長挨拶があった。それに引き続き、会務報告、監査報告が行われた。次に、2009年度事業報告および決算、評議員の承認、公益法人化対応による定款変更、2010年度事業計画案および予算案、名誉会員の承認が議題として提出され、いずれも承認された。総会に引き続いて、2010年度の学会賞(2件)、功績賞(2件)、技術賞(2件)、奨励賞(10件)の授賞式、2009年B.B.B.論文賞(8件)とMost-Cited Paper Award(1件)、および第7回農芸化学研究企画賞(3件)の表彰式が行われた。

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3月27日(土)午後には、各賞の受賞者講演が同講堂において行われた。初めに、日本農芸化学会賞受賞者の植田和光氏(京都大学大学院農学研究科)による「ヒトABCタンパク質の生理的役割と分子メカニズムの解明」と加藤茂明氏(東京大学分子細胞生物学研究所)による「脂溶性ビタミン類の作用機構に関する研究」の講演が行われた。

続いて日本農芸化学会功績賞受賞者の今泉勝己氏(九州大学大学院農学研究院)による「食品成分に関する脂質栄養学的研究」と大島敏久氏(九州大学大学院農学研究院)による「好熱菌由来の極限酵素の機能開発」の講演が行われた。

さらに、農芸化学技術賞受賞者の菊池慶実氏ほか4名(味の素(株))による「Corynebacterium glutamicumを用いたタンパク質分泌生産系の開発」と山口庄太郎氏ほか4名(天野エンザイム(株))による「新奇蛋白質修飾酵素プロテイングルタミナーゼの発見と食品加工用酵素としての開発」の講演が行われた。最後に、日本農芸化学会奨励賞受賞講演(10演題)が行われた。

同日夕刻、東京・新宿の京王プラザホテル、コンコードボールルームに場所を移して懇親会が開催された。総会終了時刻、本郷から新宿への移動の所要時間など不確定要素の多い中、大きな遅れもなく定刻18:30より、参加者総数682人の盛大な会が催された。

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大会の一般講演は28日から30日午前まで、教養学部駒場キャンパスにおいて行われた。一般演題数は2342題で、すべてOHCを用いた口頭発表(9分発表、3分討論)で行った。駒場キャンパスは、今大会実行委員会の大半を占める東大教員も利用する機会も少ないことから不案内な点も多く、不安を抱えながらの大会であったが、座長をお務めいただいた先生方を初め多くの方のご尽力で各会場とも大過なく講演が行われたことに感謝申し上げたい。

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駒場キャンパスでの3日間を通して、休憩室には無料の飲料が、飲料メーカー各社のご援助で供給された。参加者総数で単純に計算すると一人4本の飲料が提供されたことになり、異常低温と休憩室が十分に確保できない状況下で、大量の飲み残しの生ずることが懸念された。休憩室に限らず、各所に無料飲料設置場所を急遽設定し、配布に努めた結果、ほぼすべての飲料がはけたのは幸いであった。

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3日間で18社によるランチョンセミナーが開催された。各会場ではお弁当が配布され、生協食堂等の混雑緩和に貢献した。また各会場では、午前の講演終了後の聴衆とランチョンセミナー参加者が一時的に交錯する混乱が懸念されたが、会場係の適切な誘導のもと、大きな混乱はなかった。各会場とも満員盛況であった。

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駒場第2体育館を利用した展示会には、119社に参加いただいた。講演会場の多くは、駒場キャンパスの西側建物に局在しており、キャンパス東北端の第2体育館まで距離が遠く、参加者が積極的に足を運んで下さったか懸念が残る。また、体育館の使用規定上、飲食が許可されておらず、無料コーヒーなどの提供が出来なかった。今後、駒場キャンパスを本学会大会会場とするかについて、懸案事項の一つとして挙げられる。

29日(月)午後には、駒場キャンパス内のコミュニケーションプラザにおいて「ジュニア農芸化学会」が開催された。全国各地、32校(51演題)のポスター発表が行われ、満員の盛況ぶりであった。会場入り口では、採点表が配られ、優秀ポスターの投票が行われた。発表会終了後、表彰式、親睦会が行われ、優秀ポスター賞が授与された。

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29日(月)の夕刻から生協食堂にてミキサーが開催された。清水昌会長、長澤寛道大会実行委員長の挨拶の後、大学院生を中心に積極的に情報交換がなされた。薄暗くてとてもきれいとは言えないイメージの生協食堂は昔の話で、たいそうモダンで大きめな空間に予算も多めにお料理、飲料を用意したのだが、残念ながら参加者は満員にまで至らなかった。宣伝不足のため情報が伝わっていなかったのか、異常低温で暖を取りに早々に渋谷あたりの繁華街に繰り出してしまったのか、ミキサーの参加者数予想はなかなか難しい。

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30日(火)午後は、すべての一般講演は終了し、シンポジウム(29課題)が開催された。大会最終日の午後ということで、総参加者約5千人のうち何人くらいがシンポジウム会場に足を運んで下さるか、また29会場での同時開催で収容人員の著しく少ない会場が出現しないかなど不安があった。概ねどの会場も盛況で、活発な議論が交わされ、有意義なシンポジウムとなった。

3日間通して、900番講堂では12:30~13:00にオルガンコンサートが行われた。講堂の椅子に座ると、後方2階席におかれたパイプオルガンが奏でる音楽を後ろ向きに聴くという滅多にない(?)シチュエーションの中、多くの参加者が昼の一時、音楽を楽しまれていた。

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本年度からの新たな企画として、全演題の中よりトピックス賞を選定し、その発表が行われた。詳しくは日本農芸化学会2010年度大会ホームページ内のトピックス賞の項目を参照して頂きたい。

さらに2008年度大会より行われている、学生、院生、ポスドクを対象とした就職懇談会が29日、30日の2日間、コミュニケーションプラザにて開催された。多くの企業において会社説明会はすでに開催されているケースが多く、4社のみの開催であったが、熱心な参加者が会場に足を運んでいた。

第18回農芸化学会フロンティアシンポジウムは例年と異なり、大会前日の3月26日より1泊で、東京大学検見川セミナーハウスにおいて行われた。Nature、Science誌の第一著者によるシンポジウム、同時開催のソフトボール大会で、全国から集まった117名の若手研究者が親睦を深めた。詳しい大会の様子はHPを参考いただきたい。

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最後に3日間の一般講演を通して印象に残った逸話を。大会期間中、大会実行委員会の総務、会場係は13号館の大会本部に待機する時間が長かった。プログラム集を眺めていると、28日午後の有機化学・天然物化学会場の最終口頭発表者は、本学会53代会長の森謙治先生であることがわかった。異常低温の会場で最終発表までどのくらいの聴衆が残っているのか不安に思った実行委員数名は、AC会場へと向かった。

5号館3階の会場へと足を運んでみると、会場は最終発表の一つ前であったが、立ち見の聴衆があふれるほどで、杞憂に過ぎなかったことが判明した。外の寒気とは裏腹に、熱気に包まれた会場で、森先生の発表は、「私は後期高齢者です。どうかいじめないで下さい。」に始まり、よどみない報告で、門外漢の筆者にも短く感じられた9分間であった。後期高齢者が口頭発表する学会は、日本広しと言えどもいくつあるであろうか。実行委員数名は、森先生の溢れんばかりのパワーに圧倒されると同時に、少しの元気をいただき本部へと戻った。

今大会は、東京大学キャンパスを会場にしての久々の大会であった。駒場キャンパスは以前に比べると設備は格段に良くなったものの、それでも複数の建物を行き来しなくてはならず、また大会受付もふさわしい場所がないことから外気にさらされた建物玄関部分を用い、特に異常低温の中、参加者皆様方には多大なご不便をおかけしましたことお詫びいたします。最後にご支援、ご協力を賜りました維持会員企業各社、並びに参加者の皆様に感謝いたします。

2010年度大会総務
佐藤隆一郎、作田庄平、加藤久典、大西康夫、永田晋治、井上 順