日本農芸化学会2017年度大会(実行委員長 安達修二 京都大学大学院農学研究科教授)は、2017年3月17日(金)から20日(月)までの4日間、ウェスティン都ホテル京都ならびに京都女子大学を会場として開催された。京都での開催は2012年以来5年ぶりである。最終日のプログラム終了後、後片付けが終わった頃から小雨になり、Frontiersシンポジウムのエクスカーションなどに少し影響したが、大会期間を通じて好天に恵まれた。授賞式,受賞講演および農芸化学「化学と生物」シンポジウムは,大会初日にウェスティン都ホテル京都で、2日目から京都女子大学で一般講演および各種シンポジウムが開催された。

本大会では昨年に引き続き、WEB受付を主たる申込み方法とするとともに、当日参加の方の参加費払い込みもクレジットカード決済へ可能な限り誘導した。参加者数4654名のうち事前登録参加者は3244名であったのに対し、事前登録締切後から大会初日前までの参加登録者が約400名,当日登録者が約500名であった。また、懇親会参加者633名のうち、事前登録者は504名で、100名程度の当日参加申込みがあった。例年の本大会よりも1週間程度早い開催であったためか、これまでの実績等に基づく予想参加者数よりも500名程度少なかった。

大会初日

大会初日は、9時よりウェスティン都ホテル京都にて学会賞等授賞式、農芸化学女性研究者賞等授賞式、農芸化学研究企画賞表彰式、ならびにBBB論文賞等の表彰が行われた。特に、本大会から新設された女性研究者賞(3件)、若手女性研究者賞(3件)、女性企業研究者賞(3件)の表彰は、農芸化学研究における女性の貢献の重要性を高らかに発信するものであり、お子様と一緒に参加される受賞者もおられ、華やかさに加えて微笑ましい雰囲気に満ちたものとなった。表彰式に引き続いて、午前中は学会賞(2件)、功績賞(2件)、午後からは農芸化学技術賞(4件)の各受賞者が、収容人員700名強の会場をほぼ埋め尽くす参加者を前にして、熱気あふれるご講演を披露された。

受賞講演終了後、14時15分より新企画であるVisionary農芸化学100特別シンポジウムが開催された。「天然物化学」、「微生物・バイオマス」、「食品機能」、「食・腸内細菌・健康」の4つの研究領域から、研究の将来展望が語られた。各20分という短時間に溢れんばかりの未来への意気込みが詰め込まれ、密度の高い情報発信の機会になった。本シンポジウムの後半から、ジュニア農芸化学会参加者も加わって会場は満席となり、引き続いて、16時15分から農芸化学「化学と生物」シンポジウム『微生物に学び社会に活かす農芸化学の神髄』が開催された。微生物機能の産業応用研究において高名な京都大学名誉教授の清水昌先生と2015年ノーベル生理学・医学賞を受賞された北里大学特別栄誉教授・大村智先生を、講演者としてお招きした。両先生ともに、実社会に大きな貢献をなしたお仕事の数々を、圧倒的な存在感をもって語られた。お話の端々に織り込まれた先生方の研究哲学が、聴衆の心に深く浸透している様子が見て取れる、緊張感あふれるご講演であった。

18時30分より、会場を同ホテルの「瑞穂の間」に移して懇親会が開催された。開宴にあたっては、大村先生を交えて恒例の鏡開きが行われた。京都・伏見の日本酒の数々や、京都ならではの美食をご堪能いただき、広い会場でのゆったりした雰囲気のもと、600名を越える参加者による交流が賑やかに繰り広げられた。

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農芸化学女性研究者賞受賞者の方々
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Visionary100農芸化学シンポジウム
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       農芸化学「化学と生物」シンポジウム
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左から副会長、清水昌博士、大村智博士、会長
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懇親会恒例の鏡開き
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懇親会での乾杯の場面

大会2日目以降

大会2日目からは、京都女子大学において、一般講演としての口頭発表(1,904題)、シンポジウム(15課題、88題)、ランチョンシンポジウム(JABEE、男女共同参画の2課題)、ランチョンセミナー(12題)、農芸化学奨励賞の受賞講演(10件)、女性研究者賞、若手女性研究者賞、女性企業研究者賞(各3件)が行われた。農芸化学奨励賞の受賞講演は、一般講演の会場で分散して行われ、女性研究者賞、若手女性研究者賞、女性企業研究者賞の受賞講演は特設会場にて行われた。その他、産学官学術フォーラムやミキサーも開催された。体育館では、展示とジュニア農芸化学会のポスター発表が行われた。京都では2006年度大会の時に初めて託児室を設置したが、本大会においても多くの方々にご利用いただいた。

一般講演
農芸化学会が重視してきた口頭による一般講演を充実させるため、発表時間を例年の12分から15分(交代時間を含む)に延長したことが、本大会の大きな特徴であった。正味3分の講演時間の延長により、研究背景等を説明する余裕が生まれ、活発なディスカッションにつながったように思われる。若干のプロジェクターやマイクのトラブルはあったものの、ほぼ定刻ですべての一般講演を行うことができた。

シンポジウム
シンポジウムは、一般講演との並行開催という本大会の方針のため、セッション数を例年の約半分に制限する必要があった。そのため、シンポジウム課題の公募は行わず、広く学会員にメールによるアンケート調査を行い、その結果をもとにプログラム委員会によりシンポジウム課題を決定した。「もっと多くのシンポジウムを聴講したかったが、指導学生の一般講演や座長などと重なって、身動きが取りにくく残念だった。」というご意見は、当初から予想していた。そのため、プログラム編成において一般講演の内容との重複を避けるよう努力したが、講演者と世話人のスケジュール上の制限もあり、対応は十分とは言えなかった。一方、「いまさら聞けない農芸化学」は、実行委員会企画による斬新な試みで、「農芸化学らしいおもしろさがあった。」、「来年以降も続けてほしい。」などの声が多数寄せられた。また、18日午後の「腸内フローラや共培養」に関わる話題や、「伝統的発酵食品の生理機能の新展開」のシンポジウムには、会場に入りきれないほど多数の聴衆の方が来られた。

ランチョンシンポジウムとランチョンセミナー
18日の昼食時間帯に、「仕事をする女性研究者・技術者をとりまく“あれこれ”」と題した男女共同参画ランチョンシンポジウム(グループフォーラム)が開催された(主催:男女共同参画委員会、後援:男女共同参画学協会連絡会)。約100名の参加者があり、講師1名ずつを配した10のグループに分かれて、グループごとのテーマでフリートークを行った。講師のうち6名は、農芸化学女性研究者賞と農芸化学女性企業研究者賞の受賞者であった。参加者は男女がほぼ同数であり、それぞれの立場から活発な討論が行われた。

ランチョンセミナーは、大会2日目と3日目に、計12社にご提供いただいたが、両日ともチケット配布開始から約40分後には全てのセミナーのチケット配布が終了するほどの人気であった。どの会場も興味ある内容で、ほぼ満席の参加者からは、充実したセミナーであったとの感想もいただいた。配布された弁当は、京都女子大学の食堂業務を担当している業者から調達し、京都らしく春を感じさせる中身であり、概ね好評であった。

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男女共同参画ランチョンシンポジウム
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ランチョンセミナー風景

展示会
大会2日目から4日目の会期中、展示会は講演会場と同じ敷地の京都女子大学体育館で開催された。出展企業93社、バイオビジネスアピールエリア9社の展示が行われた。講演会場に近接していたため、コンスタントに会場に足を運んでいただき、また、出展数に対して比較的余裕あるスペースを確保できたため、ゆったりと展示を見ていただくことができた。その結果、参加者と出展者間で十分な情報交換をしていただけたと思っている。展示会場における抽選会では、参加証による認証を行ったが、大会4日目の午前中の早い時間に予定の抽選数全てが終了し、参加者の多くが展示会場に足を運んでいる実態を把握することができた。抽選景品については、京都のお菓子を中心に欅マグカップ、七宝焼き小皿など特徴のある工芸品を用意し、概ね好評であった。

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展示会場の風景

産官学学術交流フォーラムとミキサー
大会3日目に産学官学術交流フォーラムとミキサーが開催された。フォーラムの参加者数は300名を越え、第12回 ~ 第14回の農芸化学研究企画賞受賞者それぞれの最終報告、中間報告、企画発表に引き続き、「トップランナーが語る研究開発ビジョン~未来価値の創造~」と題し,5名の企業トップ経営者の方々から次世代の研究開発ビジョンを語っていただいた。

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産学官学術交流フォーラムの風景

その後の合同ミキサーでは、企画賞ならびに大会トピックス賞候補演題のミニポスターセッションが行われた。200名を越える参加者が会場から溢れるほどの賑わいになり、産学官の幅広い参加者による活発な交流がなされた。ビール・ワインを提供いただいた各社に感謝申し上げる。

今大会においても、大会期間中の飲料は農芸化学会関係の諸企業にご寄付いただいた。大会本部から会長名で飲料関係メーカー(賛助会員)に直接依頼し、15社から12,000本を超える飲料をご提供いただいた。各休憩室には、飲料をご寄付いただいた社名一覧を掲示したが、飲料提供メーカー各社には改めてこの場を借りて御礼申し上げる。

ジュニア農芸化学会
大会2日目に、高校生の研究発表会「ジュニア農芸化学会2017『ライブで話そう、キミの発見』」が開催された。全国から69の高校が参加し、生徒253名,教員72名の発表者および引率者を迎えて69題のポスターが展示された。会場とした京都女子大学体育館に立錐の余地もないほどの参加者が集まり、高校生の熱心な発表に耳を傾け、活発な質疑応答が行われていた。複数名の審査員と一般参加者による投票の結果、金賞1件、銀賞2件、銅賞6件が選ばれた。表彰式は13時半過ぎから行われ、表彰状の贈呈式と写真撮影が行われた。その後、京都の銘菓を食しながら交流会が開催されたが、ほぼ全ての高校生が参加し、高校生相互間および高校生と農芸化学会会員との交流を大いに深めることができた。

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ジュニア農芸化学会ポスター風景
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参加者集合写真

Frontiersシンポジウム
大会最終日である20日の午後から1泊2日で、京都市内にある「KKR京都くに荘」にて第24回農芸化学Frontiersシンポジウムが開催された。本シンポジウムは若手教員や学生の交流・親睦を主目的としていたが、今回はテーマを科学リテラシーに絞り、著名な講師らによる講演もあって、教授・准教授,高校教諭、企業研究者を含む計72名が参加した。研究者倫理にまで踏み込んだラジカルな講演内容や、科学コミュニケーションのノウハウを実践するグループワークを踏まえて、分科会・交流会やフリータイムでは垣根を越えたディスカッションが行われた。また、希望者には翌日の午後に武田薬品工業(株)の薬用植物園を見学して、生薬を五感で体感させていただいた後、隣接地である曼殊院の菌塚に参拝した。ご尽力いただいた公益財団法人発酵研究所・中濱一雄理事並びに武田薬用植物園の関係者に御礼申し上げる。

おわりに

本大会の開催にあたり、会場をご提供いただいた京都女子大学、ご支援いただいた多くの協賛企業、大会運営をサポートいただいた近畿日本ツーリスト社ならびにエー・イー企画社の担当の方々に厚く御礼申し上げる。

2017年度大会実行委員会総務
入江一浩