日本農芸化学会2022年度大会は、2022年3月15日(火)から18日(金)の4日間、前年度の仙台大会に続きオンラインで開催された。新型コロナウイルス感染症が蔓延している今となってみればずいぶん昔のことのように思われるが、大会の準備を始めようとしていた2019年秋頃の京都は多くの観光客であふれていた。ここで従来通りの大会を実施するのは難しかろうと、開催地を大阪や神戸に求める方向が検討され、大阪中之島の大阪国際会議場を会場とすることが決定された。感染症が広がり2020年度の福岡大会が中止となり、最初の緊急事態宣言が発せられた2020年4月のことである。2年後には収束していることを期待して、一般講演はポスター発表形式とし、全体の実施計画策定を進める中、感染症の拡大はとどまることなく、2022年の春の状況も予測しにくくなった。このまま計画を進めて結局キャンセルになるよりは早く方針を変更した方が損失が少ないだろうとの判断で2020年11月に2021年度の仙台大会と同じくオンラインを基本として実施することが決定された。大会史上初のオンライン開催を仙台の実行委員会がみごとに切り抜けられたのをみて、京都も基本的に同じ方式を踏襲することとし、初日の授賞関係のイベントを京都リーガロイヤルホテルで実施するほかは、東京の学会事務局にZoomホストを設置して一般講演、シンポジウム等の大会プログラムを進行させるという計画で準備を進めた。仙台大会で会期が週末に重なったことから、今回は平日開催を検討するよう要請があり、冒頭に記した日程を採用した。

仙台大会を踏襲する方針のなかで、対面でアルコールも交えながら丁々発止とやり合ってこそ意義があるとの意見が出たフロンティアシンポジウムは開催を見送った。また化学と生物シンポジウムは、オンラインが社会に広まったメリットを活かし、広く全国の聴衆を対象とする企画としてはどうかと学会執行部に提案し、今回は大会期間中には開催しないこととした。

一般講演、シンポジウム等大会のプログラム編成が進み、いよいよ大会まであと2ヶ月あまりとなった2021年の正月早々、学会事務局のネット環境が不十分とのことで、急遽Zoomのホストを京都大学のキャンパス内に設置することになった。大学内に設置できたのは実行委員会にとって都合がよく、ありがたかった。さらに折からの感染症第6波が広がる中、初日の授賞式・受賞講演もオンライン開催に変更せざるを得なくなった。急な変更にもかかわらずサポートのイベント&コンベンションハウス(ECH)が柔軟かつ的確に対応してくれ、無事に開会に漕ぎつけることができた。

一般講演の申込数は1346件で、仙台大会の1299件に比べ若干増加した。参加登録は、前回より95件減少して2841件、招待者と一般参加者を含めた参加者総数は3823名であった。またジュニア農芸化学の発表申込みは101件に及んだ。一般講演とジュニア農芸化学は発表を動画としてまとめ、事前に所定のサイトへのアップロードを求めた。

初日3月15日は、まず午前9時からその発表のオンデマンド配信をスタートさせ、10時から東京の学会事務局に設置したホストのZoom上で学会賞、女性研究者賞、企画賞、BBB論文賞と最多被引用論文賞、総説賞の授与式・表彰式が実施された。参加者向けにはその様子がVimeoストリーミング配信され、一般にもYouTubeで公開された。式に続いて学会賞2件、女性研究者賞3件、功績賞2件、技術賞2件、女性企業研究者賞2件、奨励賞9件、若手女性研究者賞3件の受賞講演が参加者向けに配信された。この間、京都の実行委員会は翌日からのZoomプログラムをサポートする学生アルバイトのガイダンス、ジュニア農芸化学のリハーサルなどの準備にあたった。

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学生アルバイトガイダンスの様子 京都大学内に設置したZoomホスト会場

翌16日からホストが京都に移り、一般講演質疑応答(Zoom Meeting)、シンポジウム、スポンサードセミナー(いずれもZoom Webinar)を3日間にわたって開催した。シンポジウムは計21件、スポンサードセミナーは6件で前年より少なくなった。シンポジウムのうち2件は、日本味と匂い学会および日本細菌学会との連携による企画である(連携シンポにおける一般参加者は73名)。2日目には「微生物と植物が駆動する新しい物質循環像とバイオ分野への展開」が、演者が英文誌Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry (BBB)の特集号にミニレビューを寄稿するBBB連携シンポジウムとして開催された。4日目には日本学術会議と共催の「複合的アプローチで拓く新規フードサイエンス」が一般公開の形で開催され(一般参加者136名)、同日に実行委員会も最新トピックを集めた一般向けシンポジウム「今こそ聞きたい農芸化学」を編成しオンライン上で公開実施した(一般参加者42名)。

また大会2日目からの3日間、企業展示のウエブサイトを大会のサイトの中に設けた。合計28社からの出展があり、サイトの中にそれぞれの資料やPR動画のリンクを貼り付ける方式が採られた。また希望する出展者には後述のチャットアプリの中に説明と質問に答えるためのブースを設置してもらった。展示への訪問者を増やすために景品が当たる抽選会を取り入れ、大会ホームページ上に出展者のバナー広告を表示した。また各社に1分程度のCM動画を作成してもらい、一般講演やシンポジウムのZoomセッション会場の休憩時間等で流すようにした。

一般講演の質疑応答に関しては、昨年の大会で一部から議論の時間が十分とれなかったとの意見が寄せられたことをふまえ、今回はチャットアプリのSpatialChatを利用した休憩室を設け、議論のつづきや打ち合わせに使ってもらえるようにした。またこのスペースの中で展示ブースや企業説明会を開催し、これらのイベントに「足を運んで」もらうことを試みた。しかしこのアプリはまだあまり普及していないと見え、事前周知や説明が不足したこともあって実際に休憩室を訪れる参加者は極めて少なく、研究発表以外の場でのオンライン情報交換やコミュニケーションは思ったほどのニーズはないようだった。リアル開催では貴重な「立ち話」も、オンラインで改まってやろうとすると単なるおしゃべりとして業務とみなされず、やりにくいのかもしれない。また展示ブースで待機してもらった出展者は時間を持て余し気味で申し訳なかった。アプリ内では近くにいる人の顔や表情が見えない場合が多いのもやりにくいところだったろう。出展者が「立ち話」をしている参加者を来訪者と見て近づいてみると「立ち話」の内容が聞こえてしまうこともあり気を遣わせてしまった。「会場」の設定が拙かった点を反省するとともに、この経験を次の機会に活かせればと思う。

ジュニア農芸化学会は、初日からのオンデマンド発表に引き続き2日目の16日にインタラクティブなセッションをSpatialChat上で開催した。101件と発表数が増えたため例年より多くの時間を割り当て、質疑応答コアタイムは3交代制とした。事前接続練習の機会を前日および前々日 に設けたが、アプリの動作不安定性から声が聞こえない、資料が提示できないなどのトラブルが一部で発生し担当委員にはご苦労をかけることになった。しかし全体としては高校からの参加登録総数が496名になる盛況で、オンラインという制限の中で参加者間の活発な交流が行われた。審査員を引き受けて下さった約70名の投票により優秀発表として金賞1件、銀賞6件、銅賞6件が選ばれた。金賞は東京学芸大学附属国際中等教育学校からの「医薬品が植物の成長におよぼす影響の解明」が受賞した。大会実行委員長による表彰、化学と生物編集委員による講評につづき松山会長からの温かいメッセージを含む挨拶をいただいて会を閉じた。大会後に実施したアンケートでは「研究者とふれあえるよい経験になった」というコメントも多く、高校生や高校の先生方に「農芸化学」をアピールするよい機会になった。

なお、2日目の夜に東北地方でかなり大きな地震があった。翌3日目の朝に連絡をとってもらったところによると什器や器具類が散乱して混乱している研究室もある模様で、一般講演やシンポジウムのキャンセルがあるかもしれないと心配したが、予定どおりにプログラムを進行することができた。現地で被災された方々には多大なご苦労があったと思われる。改めてお見舞いとお礼を申しあげます。

最終日18日の午後には産官学学術交流委員会の企画による産学官学術交流フォーラムが開催された(一般からの参加も98名あった)。三部構成で、第一部で「夢にチャレンジ企画賞」と「農芸化学研究企画賞」の発表会、第二部で「SDGs時代の農&産業サバイバル戦略~農芸化学の果たすべき役割~」と題するシンポジウムが行われ、第三部で第一部のプレゼンテーションに対する審査結果の発表があった。若手研究者の研究への情熱がスクリーン越しに感じられ、最先端科学技術と農芸化学の融合に期待して活発な質疑コメントが寄せられた。

以上、開催までいろいろと紆余曲折のあった2022年度大会を無事に終えることができ安堵している。参加者の皆さんに京都に来ていただけなかった大会を「京都大会」と言うことに抵抗はあるものの、まちがいなく京都を中心とする関西支部の精鋭で構成された実行委員会の皆さんが企画運営に貢献して下さった成果である。またコロナ禍で経済が厳しい中、多くの企業の皆様から広告や展示、スポンサードセミナー、さらには学生向け説明会で大きなご支援をいただいた。深くお礼申し上げる。加えて大会HPの構築と運営全般に関してはダイナコムとECH が大きな力を発揮してくださった。両者にはご支援いただいた関係企業の広告を大会ホームページやZoom上で流してほしいという実行委員会のかなり唐突な提案にもよく応えていただいたと思う。そして何と言っても全体に目を配りしっかりと実行委員会を支えてくださった学会事務局スタッフの皆さんの力が大きい。あらためて心からの感謝の意を表したい。

今回でオンライン開催による大会が図らずも2年続いたことになる。日常のさまざまな行事がオンラインで行われ多くの人々がリモート会議アプリの使用に抵抗がなくなるにつれ、当初感じられた対面で実施できない物足りなさや違和感も、次第に大規模会場の確保や運営に悩まなくてよい、現地まで出かけていかなくてもよいなどのコスト削減(主催者にとっても参加者にとっても)メリットとバランスして受け入れられつつあるように感じられる。社会の情勢と技術が急速に変化し、アカデミアや企業の研究環境もどんどん変わっていくであろうポストコロナの時代に、限られたリソースをうまく活用しながらいかに効果的で実のある大会を開催するか。これからはより柔軟な発想で議論を続けていく必要があるだろう。

2022年度大会実行委員長 宮川 恒(京都大学大学院農学研究科)