平成30年度「女子中高生夏の学校2018~科学・技術・人との出会い~」

2005年にスタートし、「夏学」という呼び名で親しまれている上記イベントが、今夏も8月9日から8月11日まで、主催する独立行政法人・国立女性教育会館にて開催された。今年からはJST(国立研究開発法人 科学技術振興機構)次世代人材育成事業の助成から離れ、新たな一歩を踏み出したが、内閣府、文部科学省、JST、日本学術会議、経団連、多くの学協会、教育委員会、研究機関が後援となり、本イベントを支えた。

連日記録的な暑さが続き、開催初日には台風13号の接近もあったが、今年は昨年よりも多い114名の女子中高生が参加し、学協会・企業からの出展者、プログラムスタッフを含めると、総勢204名が参加する大規模なイベントとなった(詳細は以下のURLを参照)。
http://natsugaku.jp/category/natsugaku2018/

日本農芸化学会からは、恩田真紀(大阪府立大学)と、中高生と世代が近いロールモデルとして濱田彩(日本大学 生物資源科学研究科 博士前期課程)が出席し、"サイエンスアドベンチャーⅡ「研究者・技術者と話そう」"に出展した。このプログラムは、学協会・企業が各々のブースで実験や体験学習を交えたプレゼンテーションを行い、それぞれの分野の魅力を伝えるもので、今年は42の団体が参加した。

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サイエンスアドベンチャーⅡにて、生徒達に説明をする濱田彩氏

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趣向を凝らした各ブースの演示を、熱心に見聞きする生徒達

日本農芸化学会のブースでは、「農芸化学実験 ―身近にある酵素と微生物―」と題し、身近な食品に含まれる酵素や微生物を様々な手法で生徒達に観察してもらい、食・環境・生命を化学的に研究する農芸化学の面白さについて説明した。日頃からよく目にする品々がブースに置かれているせいか、多くの生徒達が興味津々に訪れ、様々な質問が飛び交った。食品や健康、動植物を育てることに関心がある女子中高生は非常に多いが、「化学」がそれらの基盤になっていることが意外な様子であった。 農芸化学という「化学」について説明すると、「実は子供の頃、パン屋さん(ケーキ屋さん/お花屋さん)になるのが夢だった。」と、複数の生徒達が切り出し、そして今も食品や動植物に関わる分野に興味があるが、それらが化学だとは知らなかったと。そんな彼女達の興味と将来の夢に、農芸化学は密接に関わっていることを本展示で力説し、ジュニア農芸化学会を紹介した。生徒達はジュニア農芸化学会の案内チラシを興味深く開き見、訪れた全員が持ち帰った。

サイエンスアドベンチャーⅡに続いて行われた"Gate Way"というプログラムは、中高生が自身のキャリア・プラニングに向けて、科学者・技術者・TA(理系の女子学部生・院生ボランティア)からアドバイスを受ける企画で、今春に就職活動を終えた濱田のフレッシュな情報と進路決定のプロセスや体験に、生徒達は大きな関心を寄せていた。

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Gate Wayの会場にて

今年も本プログラムで多く訊かれたのは、どこの学部・学科に入れば、どのような分野が学べ、どのような職種に就けるのかというものであった。医学・薬学部についてはイメージしやすいが、それ以外の理系学部については、各大学のホームページ等で情報を収集しても、具体的なイメージには繋がりにくい様子であった。このような問いに対しては、産業に直結する応用的な生命科学である農芸化学について詳説し、この分野ではどのような進路があるかについて、統計データ、及び本学会が昨年末に刊行した『農芸化学分野のロールモデルたち』を使って説明した。本ロールモデル集により、農芸化学分野で働く女性達の具体的な例を示すことができ、昨年よりも明確に且つ活きいきとした形で、キャリア・パスの情報を提供することができた。

本イベントには全国から参加者が集まるが、地元の産業に貢献したいという声も複数あった。このような希望に対しては、地域の農水産業と連携して研究を行っている農学部はたくさんあり、地域ごとに特色があるのも農学部の魅力の一つであると伝えた。

今回のイベントで印象的だったのは、「パン屋さんになりたい」「地元に貢献したい」という夢や希望が、彼女達の頭の中では、現在直面している学びや悩みとは別件になっていることであった。本当はこんな仕事がしたかったという若者達の夢や希望と、現実の学び・未来の進路をリンクさせることは、学術界に限らず社会全体としても極めて重要である。特に農芸化学は、先に挙げたように彼女達のニーズに非常に近い学問領域であるにも関わらず、その良さが十分に知れわたっているとは言い難い。今後も引き続き、若い世代の夢や希望と現実を繋げる活動が必要であると感じた。

大阪府立大学
恩田真紀