「女子中高生夏の学校2021~科学・技術・人との出会い~」

2005年以来、科学技術振興機構(JST)をはじめ多くの団体・学協会が支援してきた上記イベント(愛称:夏学)が、今年も8月8日から8月9日まで実施された(主催:NPO法人女子中高生理工系キャリアパスプロジェクト, 後援:文部科学省 他5団体)。例年は、100名を超える女子中高生が、2泊3日の合宿を通して科学実験やキャリアプラニングを体験する形式であったが、今年はオンラインでの開催となった(詳細は以下のURLを参照)。
http://natsugaku.jp/category/夏学2021/

日本農芸化学会からは恩田真紀(大阪府立大学)と、若手女性研究者のロールモデルとして吉田彩子 博士(東京大学大学院 農学生命科学研究科 助教)、中高生と世代が近いロールモデルとして高島綾 氏(東京大学大学院 農学生命科学研究科 修士2年)が参加し、「キャリア相談 “研究者・技術者と話そう”」に出展した。このプログラムは、学協会・企業(36団体)が、Zoomのブレイクアウトルームに分かれてプレゼンテーションを行い、それぞれの分野の魅力を伝えると共に、進路相談を行うものである。

日本農芸化学会は「身近で役立つバイオの主役!農芸化学」と題し、酵素・微生物実験を書画カメラで演示しつつ、タンパク質分子の3D 表示やスライド資料を駆使して、農芸化学の特徴と魅力について紹介した。対面に比べて、生徒達からの質問やコメントを引き出すのが難しかったが、複数の生徒から異口同音に、次の様な質問が挙がった。

・食品会社に就職したい。どのような学部・学科に進めばいいか。
・食品の仕事をするには、農学部と生活科学部のどちらに進めばいいのか。
・生命科学とか生活科学とか分かり難い。違いを説明して欲しい。

事前に、以下の紹介資料に目を通している影響もあってか、食品に関わる問いかけが多かった。
https://www.jsbba.or.jp/wp-content/uploads/file/science_edu/gender/jyosi2021.pdf
https://www.jsbba.or.jp/wp-content/uploads/file/science_edu/gender/jyosi2021.mp4

そして、その問いの多くは、「どの学部に進めば、食品に関わる研究や仕事ができるのか」である。
農芸化学を含めた生命科学分野において、学部・学科名の分かり難さは想像以上に受験生を悩ませており、この種の質問を受けることは本当に多い。大学のホームページにアクセスすれば情報収集は可能であるが、同じ学部でも分野が多岐多様であったり、研究内容の説明が高校生にとっては難解であったりで、目指す学部を決めかねている様である。学会員が中高生と直接対話し、説明・アドバイスできる夏学の様なイベントは、非常に重要であると感じた。

写真1

今回、オンライン故の様々な制約があり(1セッション15分厳守, 入室は6名以内, 4セッション実施後, 30分間のフリーセッション)、演示実験/資料説明/進路相談の配分が難しかった。また、例年の対面展示であれば、進路選択に重要な役割を果たす保護者や教諭、夏学スタッフの学部生や院生も頻繁にブースを訪れ、これらの人々にも農芸化学の魅力をアピール出来たし、他の学協会員との交流も図れたが、今年はこれらの機会が全くなかった。更に、生徒とロールモデルの対話に重点が置かれるGate Wayという90分間のプログラムが今年は実施されず、日本農芸化学会の強みである女性ロールモデルの活躍や研究生活を伝える時間が十分に取れなかった。多くの工夫と苦心の上に開催されたイベントであったが、既に実績のある体験型事業を、オンラインで代替する難しさを痛感した。

来年は、再び対面・合宿形式に戻して、「夏学」を行うことを目指すという。パンデミックにより、あらゆる分野で合理化・オンライン化が迫られる社会情勢であるが、この様な難局を打開する鍵の1つが科学であり、その人材育成に繋がる事業を諦めることなく継続することは重要である。今後の開催がどのような形式であれ、日本農芸化学会として、若い世代の夢や希望を実現に繋げる活動を、絶やさず続けることは必要であろう。

大阪府立大学
恩田真紀