若手が考える農芸化学の産学官連携~産学官若手交流会 第二期活動報告~

日本農芸化学会産学官若手交流会

産学官若手交流会というものをご存知でしょうか?本会は日本農芸化学会創立80周年記念事業のコンセプトであった「産学官学術交流のさらなる推進」を実現するための方策の一つとして、2004年度に産学官学術交流委員会の下部組織として発足しました。「最近の農芸化学の産学官連携には元気がない。」との声がささやかれる中、若手研究者の産学官連携の重要性の理解と意識の向上を目的として、試行錯誤ではありますが、各地にて勉強会を開催して参りました。第一期(2004年度)は2004年11月に熱海にて第1回勉強会を開催しましたが、二期目(2005、2006年度)はさらに活動を広めるために小規模ながら年複数回各地で勉強会を開催し、農芸化学の産学官連携についてより具体的に議論を続けてきました。本稿ではその活動報告として、本会が企画した勉強会について紹介したいと思います。

 第2回産学官若手勉強会「農芸化学産学官連携へのアプローチ」

2005年12月2日 於KKRホテル東京

第一期では一泊二日、参加者約90名という規模で勉強会を開催し、活発な議論が行われました。一方で、参加者が多くなると参加者全員の交流に限界が生じること、参加者、運営面での負担が大きいという問題点も生じ、第一期メンバーの提言でもあった比較的少人数(50名前後)の勉強会を企画することにしました。第二期のメンバーで真剣に議論した結果、若手研究者(特に大学の)にとってはまず産学官連携における技術移転というものに対する意識が低いということ、産学官連携を啓発する意味でその成功例を知りたい、という意見から、東大TLO取締役の松田邦裕先生、筑波大教授でサンケアフーエル株式会社取締役の松村正利先生のご講演を頂戴しました。松田先生からは東大マーケティングモデルについて説明していただきました。TLOに必要な能力というものも解説していただき、東大TLOの真剣さに感銘を受けました。松村先生にはヒマワリ油から軽油代替のバイオディーゼル燃料を作る技術を解説していただき、農芸化学分野においても興味ある産学官連携が可能であることが分かりました。

(参加者:大学関係者34名、企業関係者25名)

産学官若手勉強会02

第3回産学官若手勉強会「農芸化学産学官連携:成功へのステップ」

2006年7月21日 於ぱるるプラザ京都

第2回勉強会の感触が良好であったことから、第3回勉強会についても同規模程度のものを企画することにしました。第2回参加者の大半は首都圏からの参加者であり、関西圏の方々の参加者が少なかったため、第3回は京都で開催することにしました。講師としては、植物ハイテック株式会社代表取締役の久住高章先生に植物バイオにおける産学官連携の必要性を、京都府立大教授の松井裕先生には長年企業に在籍され、その後大学に移られたご経験から感じる産学官連携の重要性とジレンマについて、そしてつくば環境微生物研究所代表の茂野俊也先生からは、大学の研究者がなすべきこと、なさざるべきことについて忌憚ないご講演をいただきました。

(参加者:大学関係者20名、企業関係者33名、官関係者4名)

第4回産学官若手勉強会 冬の小勉強会in広島「実学は農芸化学の美学」

2007年2月16日 於酒類総合研究所

第2回、第3回目に開催した勉強会はいずれも比較的小規模とはいえ50名程度の会であり、全ての方々とコミュニケーションを行うには若干人数が多い状況でありました。また、東京、京都という中心都市での開催であり、地方の方々も積極的に参加できるコミュニケーションの場を提供する活動の必要性を感じました。そこで新たに、地方での活動の拡大、少人数で開催することによるコミュニケーション向上を目的として、これまでとは趣の異なる小勉強会を企画しました。開催地としては広島酒類総合研究所を選定し、話題としては酒類総研という場所を生かし、醸造関係に絞ったものとしました。講演は、生研センターの石川清康先生にバイオイノベーションを目指した競争的資金制度について、酒類総研の赤尾健先生には産学官連携による清酒酵母ゲノムプロジェクトについて、サントリーの好田裕史先生からはウイスキーの香気成分のストレス緩和作用についてご講演いただきました。実際には予想以上に参加希望者が多く、これまでの小勉強会と変わらない規模となってしまいましたが、研究所見学や利き酒講習会など参加者同士の交流も考慮した内容としたことから多くのコミュニケーションをとる場とすることができたと思っております。

(参加者:大学関係者15名、企業関係者20名、官関係者20名)

第5回産学官若手勉強会 2007年度日本農芸化学会大会シンポジウム「若手が担うこれからの農芸化学~社会ニーズと産学官連携」

2007年3月25日 於東京農業大学

これまで開催した計4回の勉強会はいずれも盛会でありましたが、更なる人材交流の輪を広げ、本会の活動をより多くの若手研究者に広めることを目的として、また2年間行ってきた第二期さんわか活動の集大成として、過去抽出した課題を議論する場を設定するために、農芸化学大会でのシンポジウムを企画しました。農芸化学の主要な研究対象である、環境、食料、生命について各領域の専門の先生方、またそれ以外にもジャーナリスト、政策立案推進に関わる方々を招いて講演&パネルディスカッションを実施しました(詳細は2007年度大会の講演要旨をご覧ください。)。シンポジウムにおいては現在の社会情勢や、学問としての農芸化学の方向性、若手研究者の考え方等について議論を行いました。パネルディスカッションでは途中から大学における博士課程についての議論が白熱し、思わぬ方向に行ってしまいましたが、それも若手が企画する会として有意義なことであると思っております。ただ、事後に行いましたアンケートの中には、まだまだ若手の声が聞こえてこない、という叱咤激励も少なからずあったことは今後の反省材料となります。

(参加者:210名)

産学官若手勉強会05

以上のように第二期として企画・開催した勉強会はいずれも盛況であり、特に企業、大学からほぼ同数の参加者を集めることができたことはこれまでのこの種の勉強会に例をみないものであると自負しております。ご参加いただいた方々、ありがとうございました。やはり産学官連携には人的交流が重要であります。各勉強会では講演会後、懇親会を開き、日頃顔を合わせることのない研究者同志で活発に議論し、交流を深めることができました。まだまだ産学官連携を推進するための具体案などを出すのは難しいのが現状ですが、このような勉強会を通じて若手研究者へ啓発を続け、交流を深めていくことによって、農芸化学らしい産学官連携を改めて作りだそうということが、私たちメンバーの総意でもあります。

私たちは産学官若手交流会を親しみやすく略称で「さんわか」と呼んでいますが、各勉強会でアピールしてきたこともあり、「さんわか」という呼称も浸透してきたと感じます。名称だけでなく、今後活動についても広めていき、農芸化学の産学官連携の若手ネットワークを形成できればと考えております。学会員の皆さまも是非とも「さんわか」にご参加ください。 

さんわか第三期メンバー

 

氏名 所属 世話人 
岩井伯隆 東工大フロンティア創造共同研究センター  
岩下和裕 (独)酒類総合研究所  
小野寺秀幸 協和発酵工業(株)バイオフロンティア研究所
川崎 寿 東京電機大・工  
好田裕史 サントリー(株)健康科学研究所  
清水将年 住友化学(株)有機合成研究所  
城永祐志 味の素(株)発酵技術研究所
新谷尚弘 東北大院・農学  
中尾嘉宏 サントリー(株)先進技術応用研究所  
新美友章 名大院・生命農学  
野尻秀明 東大・生物生産工学研究センター
橋本義輝 筑波大院・生命環境  
升岡優太 三共(株)探索研究所  
村上 亮 富士化学工業(株) 食品科学研究所
吉田信行 奈良先端大・バイオ  

なお、今年度から第三期による活動が始まっております。さんわかについてのお問い合わせは以下の第三期世話人までお願いいたします。
大山真(明治製菓・医薬総合研究所、化学研究所)、春田伸(東大院・農学生命科学)、高橋裕二(キリンビール・技術戦略部)、田中一新(第一三共・創薬基盤研究所)