報告

2018年11月26日、東京大学 弥生キャンパス 中島董一郎記念ホールにて、「未来を拓くスマートバイオセンシング技術」と題し、生体情報を最新技術でセンシングし、人々の生活を豊かにすることをテーマに第32回さんわかセミナーを開催いたしました。本分野におきまして第一線でご活躍されている先生方4名をお招きし、食品や医療、介護、および特殊な細胞状態の測定に関する最新の知見や将来への展望についてご講演いただきました。当日は、他のシンポジウムと開催時期が重なっているにもかかわらず、大学・企業・公的研究機関から約45名の方にご参加いただき、本テーマに対する関心の高さが伺われました。以下、各講演について簡単にご報告いたします。

  • 岐阜大学 西津 貴久 先生からは、スイカをポンっとたたいて果実の熟し具合をたしかめるという身近な例から導入し、振動(音波)を用いて、様々な食品の物性(今回は特にテクスチャー)を測定する最新技術をご紹介いただきました。振動数によって、例えば可聴域振動の音速と弾性率は高相関であるが、超音波の場合はそうではなく、気泡や間隙の存在に起因して、音速と密度に相関があることを発見し、新しいセンサーを開発したことをご紹介頂きました。食品のテクスチャーを解析するという独創的な視点で、発想から実用化に近いところまでに進めており、非常に興味深いご講演でした。
     
  • 東北大学 末永 智一 先生からは、文科省、JSTからの支援で行われたセンターオブイノベーションCOI東北の試みについてご紹介いただきました。日常生活の「さりげないセンシング」をキーワードに、自助と共助を織り交ぜながら、さりげなく健康状態を把握し、見守り、推奨行動をアドバイスする最新技術、サービスおよびビジネスモデルについてご講演頂きました。すでに社会実装に近い研究も多く紹介されており、かなり現実味を帯びた内容となっておりました。ブロックチェーンとAIを用いたデータ管理によって統括する計画というお話のところで、個人情報の取り扱いへの対処法について活発な議論がなされました。
     
  • 東京大学 若本 祐一 先生からは、1細胞計測技術を用いて、細胞の歴史をリアルタイムにとらえるという独創的な研究をご紹介いただきました。特に今回はパーシスタンス現象という致死濃度の抗生物質をクローン細胞集団に投与したときに、極小数の細胞が遺伝子の変異なしに長期間生存し続ける現象を一細胞計測技術で追うことで、一細胞から細菌が増える様、抗生物質で死滅する様、一部が残り、分裂を続ける様をリアルタイムにとらえました。この結果から、従来の特別な細胞(ドーマント細胞)が生き残るという仮説を覆し、特別な細胞ではなく、通常細胞の一部の子孫が、生き残ること、運命分岐には抗生物質の機能を高める遺伝子の確率的発現が寄与していることをご講演頂きました。
     
  • 東京大学 小関 泰之 先生からは、誘導ラマン散乱法による生体分子の3Dイメージングについてご講演頂きました。無標識で測定できる利点がある一方で時間がかかるラマン顕微法について、誘導ラマン散乱(SRS)を用いることで高感度化と高速化した研究を紹介頂きました。分光イメージング技術と組み合わせることで、3Dイメージングもできることから、全細胞の特徴を抽出するという農芸化学と相性のよい興味深い最新技術についてご講演頂きました。

今回は農芸化学の分野から少し離れたセンシングについての講演でしたが、それにもかかわらず各講演とも、質疑応答が多く、時間をややオーバーしつつ進行しました。休憩や講演後にも活発な議論が続いておりました。また、技術交流会におきましても、演者の周りには常に人がおり、活発な議論が交わされました。参加された方々が分野の違う研究に、驚くとともに刺激を受けていたご様子で、好評であったと認識しております。本セミナーが皆様の今後の研究活動・業務において一助となれば幸いに存じます。ご多忙中にも関わらずご講演を快くご承諾いただきました講師の先生方、ならびにご参加いただきました多くの皆様に厚く御礼申し上げます。また、本セミナーのアンケートにご協力いただいた皆様に御礼申し上げます。今後とも、産学官若手交流会さんわかの活動にご協力・ご参加いただけますよう、よろしくお願い申し上げます。

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会場風景

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概要

タイトル 「未来を拓くスマートバイオセンシング技術」
主催 日本農芸化学会 産学官若手交流会(さんわか)
ポスター

さんわか

さんわか第32回セミナー ポスター(PDF)

開催趣旨 近年、身の回りの環境や生体情報を検知し、さらにはそのデータを蓄積し、人工知能に供することにより、人々の生活を豊かにする試みが精力的に進められております。 そのような流れから、多種多様な生体情報理解し、特異的に正確にセンシングする基盤技術の開発や、センシングデータを人々が利用しやすいようにストレスフリーな状態で表示する開発が重要になっております。独自に開発を進めている大手企業も多いことと思います。農芸化学の生命・食・環境分野ともおおいに関わりがあり、これからも伸びてゆく分野の一つと考えております。

そこで、第32回さんわかセミナーでは「未来を拓くスマートバイオセンシング技術」と題しまして、第一線でご活躍されている先生方をお招きして、お話を伺う機会を企画しました。講演終了後には、先生方を囲んで技術交流会も開催します。日本農芸化学会会員ではない方の参加も歓迎いたします。ご興味のある皆様方のご参加をお待ちしております。なお、技術交流会からの参加も受付けております。ぜひ本セミナーを機会に研究の幅、交流の輪を広げてみてはいかがでしょうか。
日時 2018年11月26日(月)
受付13:00~、セミナー13:30~、技術交流会17:30~
会場 東京大学 弥生キャンパス 中島董一郎記念ホール
アクセス 東大前駅(地下鉄南北線) 徒歩1分
湯島駅又は根津駅(地下鉄千代田線) 徒歩8分
本郷三丁目駅(地下鉄大江戸線) 徒歩10分
http://www.a.u-tokyo.ac.jp/campus/keiro.html
講演者 西津貴久(岐阜大学 応用生物科学部 応用生物科学科 教授)
末永智一(東北大学大学院 環境科学研究科 先端環境創成学専攻 教授)
若本祐一(東京大学大学院 総合文化研究科 広域科学専攻 准教授)
小関泰之(東京大学大学院 工学系研究科 電気系工学専攻 准教授)
プログラム 13:00- 受付開始
13:30- 開会

13:35-
『振動で食品物性をはかる』
西津貴久(岐阜大学 応用生物科学部 応用生物科学科 教授)


14:25-
『COI東北拠点の取り組み:自助と共助のバランスが取れた社会構築を目指して』
末永智一(東北大学大学院 環境科学研究科 先端環境創成学専攻 教授)


15:15- 休憩

15:25-
『特殊な細胞ヒストリーをとらえる1細胞計測技術』
若本祐一(東京大学大学院 総合文化研究科 広域科学専攻 准教授)


16:15-
『誘導ラマン散乱顕微法による生体分子イメージングとその応用』
小関泰之(東京大学大学院 工学系研究科 電気系工学専攻 准教授)


17:05- 閉会
17:30- 技術交流会
参加費 セミナー参加費:無料(当日受付可)
技術交流会参加費:3,000円、学生1,000円(事前申込制)
定員 100名
(満席となり次第締め切りとなります。当日残席がある場合のみ入場できます。)
参加申込 お申込みは下記のリンクからお願いいたします。技術交流会の参加も事前申込みが必要です。
https://service.dynacom.jp/form/g/jsbba/f_28/index.php
【セミナー参加申込締切】11/22(終日)
【技術交流会参加費事前決済締切】コンビニ決済:11/12(終日) or クレジットカード決済:11/16(正午)
※お申込みいただいた個人情報は、参加確認および今後のさんわかセミナーご案内以外の目的には使用いたしません。
問い合わせ先 日本農芸化学会 産学官若手交流会(さんわか)
E-mail (青字「E-mail」の部分をクリックしてください)