報告

23年1月18日(水)に開催した本セミナーは、企業や大学を中心に高校生や専門学校生まで、142名の方にご参加いただきました。4名の講師の先生方から、細菌叢ネットワークの農林水産業への応用、腐朽菌を用いた木質バイオリファイナリー、水素菌を用いたCO2の資源エネルギー化、ラマン散乱を利用した細胞・菌の単離技術開発といった挑戦的な内容で講演いただきました。オンラインながら活発な質疑応答もあり、盛況を収めることができました。

  • 東樹先生からは、目に見えない微生物と高等生物間の関係性を紐解き、農業・水産業など幅広い生産現場で微生物叢を最適化することで、収量増と環境保全の両立を目指す応用研究について紹介いただきました。土壌生態系とくに植物と共生する微生物叢(真菌やバクテリア)の関係をゲノムやプロテオーム、データサイエンスを駆使して読み解き、植物に頑強性・耐病性を付与しうる共生微生物を選抜・接種することで土壌への無駄なエネルギー・資源の投入を削減し、突発的な病害虫の発生を抑えることができるというのは魅力的でした。この研究が水平展開され、ウナギの養殖水槽の微生物叢などにも応用中とのことで、これから何が見えてくるのか、期待が高まるご講演でした。
     
  • 平井先生からは、木材から有用物質を作り出す研究について発表をいただきました。最初に、樹木の構造および腐朽の概要を説明していただき、白色腐朽菌の特性を解説していただきました。この白色腐朽菌を用いることで、難分解性化合物(セルロースとリグニン)からバイオ燃料(エタノールや水素)や高分子原料(βケトアジピン酸)を生成する機構を解説していただきました。白色腐朽菌の代謝経路・酵素・遺伝子を同定し、ノックダウン・ノックアウト技術を活用することで任意の物質を高産生させる手法は、木材のバイオリファイナリーに限らず、農芸化学分野における微生物研究にも寄与しうる有用なお話が伺えたご講演でした。
     
  • 磯崎先生(合田先生の代理でご講演いただきました)からは、蛍光標識を必要とせず、細胞生体内分子を光学的に高速検出する「誘導ラマン散乱(stimulated Raman scattering, SRS)を利用したフローサイトメトリー、およびこれをさらに発展させたセルソーターの開発や、実用例について概説をいただきました。ラマン散乱がどういった現象であるかという解説から、「シグナルが弱い」というラマン散乱の欠点をSRSにより補い、実用化につなげた経緯を丁寧に説明いただきました。本技術をディープラーニングと併用することで高度な細胞分類も可能なことから、既に有用成分を高蓄積する微生物の探索やがん細胞の検出など様々なシーンで活用例があり、世界中の研究者との共同研究を進めているとの話を伺うことが出来、微生物探索の新たな時代を感じさせるご講演でした。
     
  • 川口先生からはUCDI水素菌を用いてCO2を原料、水素をエネルギーとして化成品や食品、燃料を作る技術についてご講演頂きました。近年、脱炭素社会の実現に向けて水素菌を用いたモノづくりに取り組む企業が増えてきていますが、UCDI水素菌はCO2からの細胞収率が68%と高いこと、増殖速度が顕著に早いこと、増殖非連動型のバイオプロセス、至適温度が高いことによるコンタミリスク低減が他社との差別化点だということでした。開発したCO2由来ポリ乳酸は大手コンビニのプラスチック容器にも使用されており、CO2でのモノづくりは夢ではなく実用的な技術になりつつあるとのことです。今後の展望として、他社との協業により、CO2由来製品の開発、普及を通して地球温暖化や食料問題の解決に貢献したいとのお話がありました。参加者からの質問やコメントが多数寄せられ、グリーンバイオプロセスが非常に関心度の高い分野であることが分かりました。

アンケートでは講演内容に関して高評価頂きました。また次回以降のセミナーで扱うテーマについても有意義なご意見・ご期待を賜りました。今回、ご多忙中にも関わらずご講演を快くご承諾いただきました講師の先生方、ならびにご参加いただきました多くの皆様に改めて御礼申し上げます。今後とも、さんわか活動にご協力・ご参加いただけますよう、よろしくお願い申し上げます。

さんわか10期 伊出、宮武、矢野、吉永

ご講演いただいた先生方

東樹 宏和 京都大学 生態学研究センター
平井 浩文 静岡大学 農学部
磯崎 瑛宏
(合田 圭介先生の代理として)
東京大学 理学研究科
川口 甲介 株式会社CO2資源化研究所

概要

タイトル 「微生物×SDGs ~GXを加速する微生物科学~」
主催 日本農芸化学会 産学官若手交流会(さんわか)
ポスター

さんわか第39回セミナー ポスター(PDF)

開催趣旨 地球温暖化や海洋汚染、人口増加に伴う水不足、資源枯渇など、わたしたちを取り巻く地球環境問題は深刻化しています。持続的な発展を実現するためには、資源・エネルギーを循環的に利用する技術が必要不可欠です。近年、こうした問題を背景に微生物を利用したバイオマス関連テクノロジーが注目されています。そこで、この度は当分野においてご活躍の先生方をお招きしたセミナーを企画いたします。ご興味のある皆様方のご参加をお待ちしております。日本農芸化学会会員ではない方のご参加も歓迎いたします。
日時 2023年1月18日(水)13:00~16:10
開催方法 Zoomウェビナー配信
プログラム 13:00
開会あいさつ

13:05~13:45
「微生物多様性と生態系の情報で持続可能な生産システムを実装する」
東樹 宏和 氏(京都大学生態学研究センター/サンリット・シードリングス株式会社)

13:50~14:30
「白色腐朽菌を用いたバイオリファイナリー」 
平井 浩文 氏(静岡大学 農学部)

休憩

14:40~15:20
「無標識細胞スクリーニングが拓く新展開」
磯崎 瑛宏氏(東京大学 理学研究科)
(合田 圭介 氏(東京大学 理学研究科)の代理)

15:25~16:05
「UCDI®水素菌を用いたCO2からのものづくり」
川口 甲介 氏(株式会社CO2資源化研究所)

16:10
閉会あいさつ
参加費 無料
定員 200名
参加申込 お申込みは下記のリンクからお願いいたします。


※1/13 17時30分までに申し込みされた方は、1/16にウェビナー参加URLを送付いたします。
1/16までに申し込みされた方は、1/17にウェビナー参加URLを送付いたします。
それ以降に申し込みされた方は当日11:00までに送付する予定です。参加URLリンクが送られてこない場合は、下記問い合わせ先までご連絡ください。
※先着順で定員に達し次第、申込受付を締め切らせていただきますので、お早めにお申し込みください。
申込締切 2023年1月17日(火)18:00
問い合わせ先 日本農芸化学会 産学官若手交流会(さんわか)
sanwaka10th●gmail.com
(「●」を「@」に変換して送信してください)