報告

2023年12月4日(月)に第40回さんわかセミナーを京都大学農学部総合館にて実施しました。企業研究者や大学の教員、学生を中心に40名の方にご参加いただきました。4名の講師の先生方から、テクノロジーを活用した持続可能な農業の達成、AIを活用した個別栄養最適食(AI食)の提案、麹菌による代替肉(麹肉)の美味しさと健康機能性、食用コオロギを用いた次世代食の開発、といった挑戦的な内容で講演いただきました。会場からの質疑は絶えず、盛況を収めることができました。

  • 中道先生からは、脱炭素型農業を実現するためには栽培から消費までバリューチェーン全体でその戦略を練り、実行していく必要がある旨概説いただきました。温室効果ガス排出の要因となる化学肥料の使用量を低減しつつも、産地現場で懸念される収量および品質の減少リスクに対応していかなければなりません。それらを同時に達成できる可能性を秘める手段として、バイオスティミュラント(BS)について紹介いただきました。植物の機能を引き出すことで環境ストレスを緩和し、高温障害抑制や養分吸収効率などの効果を発揮することで、収量や品質リスクを向上させるBSには大きな可能性を感じました。
     
  • 小山先生からは、個人毎に取得した毎日の食事の栄養素と身体状態のデータ(血圧、体重など)との多変量解析により、身体状態の変化に寄与する栄養素を特定することで、目標とする身体状態に近づけるために必要な栄養素を最適化した「個別栄養最適食(AI食)」を提案する技術について紹介していただきました。これまでにAI食によって血圧、体重、短期記憶、骨格筋率、水泳記録、持久力、集中力の改善効果が認められているとのことでした。身体状態の変化に関わる栄養素は、個人の体質や直近の食事の履歴などによって変わるとのことであり、同じ栄養素でも改善に働く人と改悪に働く人がいる点が印象的でした。数値化できる身体状態であれば何でも改善効果が期待できるとのことであり、今後多くの人の健康状態の改善に役立つ技術であることが伺えるご講演でした。
     
  • 萩原先生からは、代替タンパク質としての麹菌の可能性をご紹介いただきました。食糧不足や CO2 排出量の上昇など、現代の人類が直面している多様な問題を解決する手段として、菌を栄養源として取り入れる「マイコプロテイン」が期待されていることを伺いました。また、既存の食料品や他の代替タンパク質と比較して、培養が容易であり生育速度も早いという優位性を教えていただきました。さらに、海外で販売されているマイコプロテイン食品と比較して、日本の国菌として知られる麹菌を使用することは安全であり信用できるものとのご説明もいただきました。麹菌の繊維からなる独特の食感や味を想像しながら興味を持っておられた方も多かったようです。
     
  • 櫻井先生による講演では、食用コオロギの生産やその持つポテンシャルについて詳細に説明がありました。日本での昆虫食に対する嫌悪感や受け入れられない難しさについても触れられ、食虫文化を否定しない社会の形成を訴えられました。なぜ昆虫の中でもコオロギなのか?という疑問についてですが、その理由として飼育の容易さや栄養価の高さが挙げられました。また、講演では次世代食としての昆虫食を具体的に体験する機会も設けられ、チョコクランチやチップスの試食品が提供されました。これらの試食を通じて、昆虫食が想像以上に美味しく、次世代食への理解を深めるための一歩となることが確認できました。

アンケートでは講演内容に関して高評価頂きました。また次回以降のセミナーで扱うテーマについても有意義なご意見・ご期待を賜りました。今回、ご多忙中にも関わらずご講演を快くご承諾いただきました講師の先生方、ならびにご参加いただきました多くの皆様に改めて御礼申し上げます。今後とも、さんわか活動にご協力・ご参加いただけますよう、よろしくお願い申し上げます。

さんわか11期 小野、佐藤、白石、辻井、樋口

会場風景

写真 写真

概要

 

タイトル 「次世代の食品産業 ~生産から消費まで~」
主催 日本農芸化学会 産学官若手交流会(さんわか)
ポスター

さんわか第40回セミナー ポスター(PDF)

開催趣旨 現在の食品産業は、人口増加に伴う食料不足を始めとして食品の不均衡な分配、食品ロス、農業の持続可能性の低下など多様な問題を抱えています。このような状況に対応するため、最先端のテクノロジーを駆使したフードテックの開発が不可欠です。特にAIやビッグデータ、代替タンパク質を活用した次世代食品の開発は食料問題の解決策として注目されています。
第40回さんわかセミナーでは、次世代食品産業の開発でご活躍されている先生方をお招きしてお話を伺う機会を企画しました。
・テクノロジーを活用した持続可能な農業の達成
・AIを活用した個別栄養最適食(AI食)の提案
・麹菌による代替肉(麹肉)の美味しさと健康機能性
・食用コオロギを用いた次世代食の開発
次世代食品産業の全体像から代替タンパク質の開発について、学べるセミナーかと存じます。ご興味のある皆様方のご参加をお待ちしております。日本農芸化学会会員ではない方のご参加も歓迎いたします。
最後のご講演ではFUTURENAUT株式会社様より提供いただいたチップス、チョコレートの試食会を予定しています。
日時 2023年12月4日(月)13:00~16:30(予定)
開催方法 オンサイト
会場 京都大学 吉田キャンパス北部構内 農学部総合館 講義室W506
アクセス JR京都駅から
市バス 京都駅前 206系統「東山通 北大路バスターミナル」行(約35分)→百万遍 (→今出川通を東に徒歩10分)
市バス 京都駅前 17系統 「河原町通 錦林車庫」行(約35分)→京大農学部前
プログラム 13:00
開会あいさつ

13:05~13:45
「栽培から消費まで:バリューチェーン全体で実現する脱炭素型農業」
中道 貴也 氏(株式会社 AGRI SMILE)

13:45~14:25
「栄養素の秘密がわかる!個別栄養最適食・AI食で健康実現」 
小山 正浩 氏(株式会社ウェルナス)

<休憩>

14:45~15:25
「人も地球も健康にする麹菌を用いた代替肉・代替プロテイン開発」
萩原 大祐 氏(筑波大学生命環境系)

<試食準備>

15:35~16:15
「食用コオロギの生産から利用、~コオロギは次世代たんぱくになるのか?~」
櫻井 蓮 氏(FUTURENAUT株式会社)

16:20
閉会あいさつ
要旨集 要旨集(PDF)
※講演要旨集はパスワードを設定しております。ご参加者登録者様には別途メールにてパスワードをご案内いたします。
参加費 無料
定員 80名
参加申込 お申込みは参加申し込みフォームからお願い致します。
申込締切 2023年12月1日(金)15:00
※締切後事前登録無しでも、当日に残席があれば入場可能です。
問い合わせ先 日本農芸化学会 産学官若手交流会(さんわか)
sanwaka.jsbba●gmail.com
(「●」を「@」に変換して送信してください)