概要

日時 2025年11月7日(金)17:30~18:30
場所 A-pot
(東京都千代田区神田司町2-17 あけぼのビルB1 )
テーマ 世界に広がる日本の味、しょうゆ ― しょうゆ醸造と麹菌の安全性の科学 ―
講師 伊藤 考太郎 氏(キッコーマン株式会社)
コーディネーター 川崎 寿 氏(キッコーマン株式会社)
主催 日本農芸化学会
内容 日本の伝統的な調味料であるしょうゆは、今では和食とともに国境を越え、世界中で親しまれるようになりました。しょうゆのグローバル展開にはさまざまな課題がありましたが、そのひとつが麹菌によるカビ毒の問題です。近年、麹菌のゲノム情報が明らかになり、カビ毒をつくる遺伝子のしくみも少しずつ解明されてきました。これらのカビ毒は「二次代謝産物」と呼ばれる化合物の一部として知られています。本講演では、麹菌がカビ毒をつくらないしくみを紹介しながら、しょうゆ醸造における麹菌の役割についても、わかりやすくお話しします。
参加費 500円(ドリンク代として)
定員 15名(事前申込み制・先着順)
申し込み方法 参加申込フォームからお申し込みください。
問合せ先・連絡担当者 尾仲 宏康(学習院大学理学部)
hiroyasu.onaka●gakushuin.ac.jp (●を@に置き換えてください)

【ご参加のみなさまへ、感染症予防および拡散防止対策へのご協力のお願い】
感染症拡大の防止に細心の注意を払い、換気などの防止策を行なった上で講座を実施します。参加者のみなさまも、手洗いなど感染症防止策にご協力ください。
■来場前に発熱や咳、全身痛等の症状がある場合は、ご来場をお控えください。
■会場では、マスクのご着用をお願いします。
■手洗い、消毒用アルコール使用の励行をお願いします。

会場風景

会場風景写真1  会場風景写真2

報告

2025年117日(金)、千代田区神田のA-potにて、第163回サイエンスカフェ in 東京が開催されました。テーマは「世界に広がる日本の味、しょうゆしょうゆ醸造と麹菌の安全性の科学」。講師はキッコーマン株式会社の伊藤考太郎氏、コーディネーターは同社の川崎寿氏が務め、当日は17名の参加者が集いました。

講演では、しょうゆがどのように作られるのか、その伝統と科学の両面からわかりやすく解説が行われました。製造工程の中でも、①麹づくり、②櫂入れ、③火入れが特に重要であることが示され、麹菌、酵母、乳酸菌の三者が協調して発酵を進め、香りや旨みを生み出すことが説明されました。さらに、熟成の過程でメイラード反応が進行し、しょうゆ特有の色や豊かな風味が形成されることにも触れられました。伝統的な職人技に科学的な裏づけを与える講演内容に、参加者は熱心に聞き入っていました。

また、しょうゆ産業の国際的な広がりについても多くの興味深い話題が紹介されました。現在、キッコーマンの利益の約9割は海外での販売によるものであり、しょうゆは今や世界共通の調味料となっています。アメリカへの進出は1950年代に始まり、1961年に「TERIYAKI(照り焼き)」ソースが開発されたことを契機に、現地での需要が急増。これに伴い、米国工場での現地生産が本格化したという歴史的経緯も語られました。

さらに、麹菌の安全性についても科学的視点から丁寧に説明されました。一般にカビの一部はアフラトキシンなどのカビ毒を生成しますが、しょうゆ製造に用いられる麹菌 Aspergillus oryzae は長年の利用実績と遺伝学的研究から、毒素を全く産生しない安全な菌株であることが明らかにされています。伊藤氏はこの科学的根拠を示し、食品発酵における安全性確保の重要性を強調しました。

質疑応答では、海外市場における日本食文化の受容や、発酵技術の将来展望などについて活発な意見交換が行われました。終了後の懇談も和やかな雰囲気で、参加者はしょうゆを通して発酵科学の奥深さと日本の食文化の国際的な広がりを改めて実感していました。今回のサイエンスカフェは、伝統産業と最先端科学をつなぐ意義深い時間となりました。

参加者:17名